ダイナミックストレッチング(DS)が持久走パフォーマンスに及ぼす影響についての報告は少ない.また,僅かな報告の走運動の強度は陸上競技長距離種目に比べ低かった.よって,今のところ陸上競技長距離種目のウォームアップにおけるDSの実施がパフォーマンス向上に有効か否かについては不明のままである.そこで本研究の目的はDSが比較的高い強度の持久走パフォーマンスに及ぼす影響を明らかにすることであった.被験者は大学陸上競技部所属の中長距離種目選手7名であった.各被験者は以下に示す2処置の1つを施行した後,最大酸素摂取量の90%相当の速度に設定したトレッドミル上で疲労困憊に至るまで走運動を実施した.処置は1)DSを実施する(DS)処置および2)安静保持のコントロール(CON)とし,すべての被験者が両処置を別日にランダムな順序で施行した.DS処置では両脚の5筋群(股関節伸展筋群および屈曲筋群,膝関節伸展筋および屈曲筋群,足底屈筋群)に2秒に1回のペースで10回のDSを1セット実施した.走運動パフォーマンスは運動継続時間を以て評価した.また,走運動中の効率を評価するため呼気ガス分析装置を用いて運動開始から終了まで酸素摂取量を測定した.DS処置の運動継続時間は928.6±215.0秒と,CONの785.3±206.2秒に比較し,有意に(p<0.01)高値を示した.一方,酸素摂取量は処置間に差は認められなかった.これらのことから,DSは比較的高い強度の持久走パフォーマンスを向上させることが明らかとなった.一方,酸素摂取量より同定した走運動の効率には変化を来さなかったことから,他の要因がパフォーマンス向上に関わっていることが示唆された.以上,本研究で得られた知見より,陸上競技長距離種目のウォームアップにおいて本研究で用いたDSを実施することはより良いパフォーマンス発揮に繋がることが示唆される.
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