本研究は、競技者が競技成績の停滞、低下によって無力感状態に陥る現象に焦点を当て、無力感状態が生起する要因を明らかにし、無力感状態にある競技者に対する有効な介入方法を検討することを目的としている。 昨年度、無力感の逆概念とされているセルフ・エフィカシー(以下SE)を測定する尺度として、「競泳選手の練習場面におけるSE尺度」を作成した。本年度は、その改訂を行った。改定した尺度は、「自己調整的な取り組みに対するエフィカシー」、「自己管理への取り組みに対するエフィカシー」、「自律的な取り組みに対するエフィカシー」の3因子構造となった。改訂したSE尺度および、競技場面における原因帰属スタイルを測定する尺度(以下SASS)を用いて調査を実施した。SASSについては、設定された事象に対する重要性次元の解釈に課題が残されていたため、あらかじめ事象を設定せず、対象者が重要であるとした事象を記入させ、それについて回答を求めた。 競泳選手の練習場面におけるSE尺度とSASSについて、分散分析を行った。その結果、SEが低い群と高い群の間に有意差が認められた。ポジティブな事象が起きる原因について、SEが低い群は高い群よりも「その原因を自分でコントロールできない(統御性)」、「その原因は意図的に行っていない(作意性)」という原因帰属スタイルであることが明らかとなった。つまり、ネガティブな事象の原因をどのように捉えるのかということよりも、ポジティブな事象の原因をどのように捉えるのかが重要であると言える。 無力感状態から回復した経験のある選手へのインタビューでは、パフォーマンスの向上を実感した直後に記録の停滞が起こった場合、無力感が発生するケースが複数みられた。また、復調に向かった経緯として、指導者からの助言や、期待、異なる環境での練習等、外的要因が強く関与することが示唆された。
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