本研究は、膝関節のMR画像から関節内の骨形状および靱帯を3次元的に構築し、それを動的にシミュレーションすることで前十字靭帯(ACL)損傷時の関節内の状況を可視化することを目的とした。健常膝関節(コントロール群)および片側ACL再建女性の反対側健常膝関節(ACL再建群)のMR画像データをもとに画像解析ソフトZedViewにて大腿骨、ACL、脛骨の輪郭を抽出しコンピュータ上に3次元モデルを構築した。有限要素法を用いたシミュレーションはMarc Mentat(MSC.)を用いた。シミュレーション条件は脛骨回旋および膝関節外反、脛骨前方移動を組み合わせ3方向へ同時に移動させた。また、脛骨前方移動を「水平方向」と「前上方向」の2種類に設定した。 その結果、大腿骨顆間窩とACLの接触は、脛骨内旋-外反-脛骨前方移動(前上方向)の動きにおいてみられた。大腿骨顆間窩の内側(内側顆の内側面)と靭帯下1/3部(下1/3から脛骨付着部)で接触しており、このときの平均移動量は、ACL再建女性群では内旋8度-外反8度-脛骨前方移動(前上方向)8mm、女性コントロール群では8.4度且つ8.4mmだった。脛骨の前上方向への移動は、大腿四頭筋による牽引およびジャンプ着地等のスポーツ動作時の体重(重力)を想定しており、これらと脛骨の回旋および外反が組み合わさると大腿骨顆間窩とACLの接触が生じる可能性が示唆された。ACL再建女性群の移動量がわずかに少ない傾向にあった点は、ACL再建女性群の大腿骨の顆間窩容積が他群に比べ小さいことが関係していると思われる。靭帯自体に生じた応力値は80MPa以上であった。 大腿骨と脛骨の接触は、ACL再建女性群では脛骨内旋-外反-脛骨前方移動(前上方向)でおよそ5度且つ5mm、脛骨外旋方向で7.5度且つ7.5mmにてみられた。接触部位は大腿骨外側顆荷重面と脛骨外側顆後方面だった。骨表面には170MPa以上の応力が加わっていた。
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