近年,アスリートの心理サポートの利用は増加しており,継続的な心理サポートが,彼らの心理的変容や,あるいはパフォーマンス向上に対してどのように貢献するのかについて,そのメカニズムに迫る必要がある.トップレベルのアスリートに対するサポート実践とその記録はこの課題に迫ることのできる貴重な資料である.そこで本研究では,トップアスリートの心理サポート体験過程の資料を用いて,彼らの体験する身体をキーファクターとし,心理的変容が競技力向上に寄与するメカニズムを明らかにすることを目的とした. 主要国際大会に向け行われたトップレベルアスリートへの心理サポート実践の中から5名のケース対象とし,サポート過程の記録資料を臨床学的方法論に基づき事例検討を通じて考察を試みた.アセスメントにて見立てられた内的課題は,アスリートの日常の競技生活の語りからその変容が確認された.特に,パフォーマンスの振り返り,すなわち体験的身体の語りの質的変化がその後のパフォーマンス変容に影響を与えることが見出された.一度対象化された身体は,その語りを通して再び内在化されていった.また特に主要大会時期では,当初の主訴が強く試されるような外的事象が生じ,心理的変容に大きく影響するものであった. 本研究は,アスリートの体験的身体が競技力向上と結びつくことを示したが,これらの結果は,アスリートの競技力向上と心理的変容の繋がりについて説明できる視点を提供し,心理専門家の提供するサポートの質的向上に繋がるだろう.また,競技力向上に関するトレーニング方法や指導法に,アスリートの心理的変容過程というこれまでとは異なる新たな視点から知見を提示することができた.
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