研究実績の概要 |
本研究の目的は、骨格筋の電気力学的遅延(Electromechanical delay, EMD)という現象を利用した筋機能評価法の確立に向けて基礎データを蓄積することである。平成27年度は単一の高強度運動によるEMDの縦断的変化について検討することを目的として、肘屈筋群を対象とした実験を実施した。対象者は健康な若齢男性とした。高強度運動には重量負荷を利用した伸張性収縮を採用した。運動直後、2日後、4日後において、安静状態の上腕二頭筋に電気刺激を与え、同筋の筋腹に貼り付けた高感度加速度計により刺激から筋収縮が開始するまでの時間(Tec)を測定し、筋力計により刺激から肘屈曲力が発揮されるまでの時間(EMD)を測定した。また、TecとEMDの時間ずれを筋収縮力の伝達に要する時間(Tm)として算出した。その結果、運動4日後におけるTmおよびEMDは、運動前と比較して増大する傾向が観察された。Tmは筋が発揮した収縮力が結合組織を介して関節トルクに変換される過程における力学的効率の指標と考えられる。したがって、高強度運動は一過的に筋の力学的効率を低下させることが上記の結果から示唆された。 平成27年度の研究成果としては、初年度から取り組んできたEMDの性差に関する検討結果を第70回日本体力医学会大会で発表したことが挙げられる。測定の対象とする筋(部位)や分析方法について未だ検討の余地が残っていることもあり、論文としての成果発表には至らなかったが、補助事業期間を総括して、EMDが筋機能の有用な指標となり得ることを示唆するデータが数多く得られたと考えている。
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