研究課題/領域番号 |
24700699
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 鹿屋体育大学 |
研究代表者 |
與谷 謙吾 鹿屋体育大学, スポーツ生命科学系, 助教 (10581142)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 筋電図 / 経頭蓋磁気刺激 / 反応時間 |
研究概要 |
反応課題全体の処理時間の多くを占める神経系の所要時間 (筋電図反応時間) は、スポーツや日常における様々な反応パフォーマンスを左右することから、従来の反応時間研究では、筋電図反応時間を短縮させる試みが多く行われてきた。その一方で、筋電図反応時間の遅延 (時間的に長くなる) に関する知見は希少であり、今後、その予防策を考慮する上でもスポーツ科学が担う課題として発展が望まれる分野であるといえる。そこで本研究では、筋電図反応時間の遅延に関するメカニズムを非侵襲的手法を用いて明らかにすることを目的とした。 初年度は、経頭蓋磁気刺激装置を用いて筋電図反応時間を①脳内の処理時間(VMRT)と②下行性の伝導時間(MEP潜時)に区分し、反応の遅延に関わる時間要素の同定を試みた。さらに、VMRTは光刺激から運動野に至るまでの処理時間を反映しているため、一つ目の検討として、脳波記録を用いて視覚-運動処理に関わる領域を検証した。健康な成人男性を対象に、光刺激に対する筋電図反応時間を脳波と同時に計測し、さらに、筋電図反応時間は経頭蓋磁気刺激装置を用いてVMRTとMEP潜時に区分した。その結果、脳波成分潜時(P300)は筋電図反応時間のなかでもVMRTとの間でのみ高い正相関(r=0.8-0.9)を示し、前頭部と後頭頂部における処理速度の関与が示唆された。次に、二つ目の検討として、事前の力発揮を伴う弛緩反応課題や多重反応課題遂行中の筋電図反応時間を計測したところ、安静時の計測と比較して両課題とも力発揮の増加に伴って筋電図反応時間、特にVMRTに遅延が生じることが明らかになった。以上の結果より、筋電図反応時間における変化(遅延)はMEP潜時ではなくVMRTに起因し、視覚野以降の高次処理の影響が関わっている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要な目的は、反応の遅延に関する中枢メカニズムを解明することである。そのための具体的な目標としては、①筋電図反応時間の区分と遅延に関わる条件等の評価、②VMRTにおける遅延のメカニズムの調査、③反応課題遂行中の磁気刺激に伴う遅延への影響(遅延抑制の対処法の模索)を明らかにすることをあげている。 現在まで、①の目標として、経頭蓋磁気刺激装置を用いて筋電図反応時間を区分し、脳内の処理時間(VMRT)と下行性の伝導時間(MEP潜時)を評価しながら遅延に影響する時間要素がVMRTであることを明らかにした。加えて、VMRTは、網膜(目)から運動野に至るまでの脳内の広い処理期間を反映しているなかで、視覚野以降の高次処理がVMRTの遅延に関わる可能性も見出した。次年度以降は、酸素動態等の測定を加えた新たな遅延に関わるメカニズムに関する知見を得たいと考えている。 以上の点から、当初の計画目標に沿った現在までの達成度を「概ね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
筋電図反応時間を脳内の処理時間(VMRT)と下行性の伝導時間(MEP潜時)に区分して評価する方法は近年(Yotani et al., 2011)から実施されたものであり、これまでの筋電図反応時間の研究において、その遅速要因に関する深い言及は避けられてきた。一方、視覚-運動処理においては、脳の特定領域が関与することが明らかにされてきており(Astafiev et al., 2003; Iacoboni 2006)、これらの報告との繋がりを明らかにするために、初年度は、VMRTを同定してその変化を明らかにした。 今後は、これまでの先行研究をもとに、その各領域における酸素動態の変化とVMRTとの関連性を検討し、遅延に関する中枢メカニズムについて調査を行う予定である。しかし、神経系の処理速度は、血流の変化よりもはるかに速く、1ミリ秒以下で処理が遂行する反応課題において、中枢の酸素動態の変化を捉えられるかは不安である。一方で、本機関は、脳波計測装置も備えており、これは脳機能計測装置の中でも高い時間分解能を有し、特定の脳波成分の発生部位を推定することができる (Scherg & Berg, 1996)。当初の計画において、結果が得られづらい場合は、脳波の併用も考慮して柔軟に対応するように計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の関わる機材等はすべて現有のものを使用し、破損等による修理の場合を除いては研究費の多くを消耗品に当てる予定である。筋電図記録等において、その電極を固定するためのテープ類、アルコール、アース電極等の購入は必要不可欠であるため物品費に計上する。また、昨年度の実績を含め、得られた結果を学会等で発表するための旅費、そして論文執筆に係るその他の費用を消耗品の次に多く計上する予定である。
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