研究課題/領域番号 |
24700703
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
柿木 亮 順天堂大学, 医学部, 助教 (70614931)
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キーワード | 筋収縮様式 / レジスタンス運動 / 筋タンパク質合成 / 細胞内シグナル伝達 / トレーニングステータス / 筋線維組成 |
研究概要 |
昨年度、ヒト骨格筋を対象に、筋収縮様式の違いが筋タンパク質合成に関与するmTORシグナル伝達経路に及ぼす影響を検討し、等尺生および短縮性よりも伸張性収縮がS6K1をより早期に活性化させることを報告した。このことは、伸張性収縮がより筋タンパク質合成を促進するのに有利に働く可能性を示唆している。本年度は、筋収縮によるmTORのシグナル応答が筋線維組成によって異なるのではないかという仮説を検証するために、鍛錬者と非鍛錬者を用いて、短縮性および伸張性収縮後のmTORシグナル伝達経路の活性化に及ぼす影響を検討する実験に着手した。運動を行っていない健康な男性8名(Sed群)と運動トレーニングを定期的に行っている男性8名(TR群)を被験者とした。等速性運動装置(Biodex system3)を用いて設定された角速度(伸張性;-90/秒、短縮性;90度/秒のいずれか)にて片脚の膝伸展運動を10回×4セット行った。膝伸展運動前および運動1時間後に局所麻酔下にて筋生検を行い、被験者の大腿外側部から筋バイオプシーサンプルを摘出した。摘出した筋サンプルをウェスタンブロット法を用いて、タンパク質のリン酸化を分析した。両群において短縮性収縮は、運動1時間後でmTORシグナルを変化させなかった。一方、伸張性収縮は、Sed群およびTR群の骨格筋のmTORのリン酸化を有意に増加させた。しかしながら、mTORの下流のS6K1リン酸化(Thr389)の有意な増加はSed群においてのみ観察された。また、タンパク質合成や遺伝子発現調節に関与するMAPKファミリーのERK1/2リン酸化反応も、Sed群においてのみ有意に増加していた。これらの結果から、非鍛錬者の骨格筋においては筋タンパク質合成に関与するシグナル応答は大きいことが示唆された。しかし、この応答が筋線維組成とどのように関連があるかは次年度の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、筋線維組成の差を極端にするため、短距離走者と長距離走者を被験者としてリクルートすることを考えていたが、筋生検によりトレーニングを中断させてしまうという観点から実験参加の同意が得られなかった。したがって、その代替案として用意していたトレーニング鍛錬者と非鍛錬者との比較に切り替えたところ、被験者のリクルートおよび実験実施が円滑に行えるようになった。一部のデータ(RT-PCR法による遺伝子発現)を残して、データもほぼ取り終えることができ、現在のところ、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度までに得られた試料からRT-PCR法を用いてmRNA発現の定量を行い、シグナル応答をサポートする証拠を得る予定である。また、筋線維特異的なシグナル応答が生じているのか否かを検証するために、筋横断切片を用いた免疫染色法による検討、あるいは単一筋線維を用いたウェスタンブロット法による検討を行う予定である。これらのデータをまとめて、筋収縮様式と筋線維組成がタンパク質合成の調節機構である細胞内シグナル伝達に及ぼす影響を明らかにしようと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
ヒト骨格筋のRT-PCRの分析方法の確立が若干遅れていたことから、本年度使用予定であったRT-PCR係る消耗品費が次年度へと繰り越されている。 次年度はRT-PCRおよび免疫染色法による分析に必須な消耗品の購入に多くの費用を充てる。また、これまで得られた研究成果を発表すべく、学会発表および論文投稿のための費用に充てる。
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