研究課題
筋幹細胞である筋衛星(サテライト)細胞は、通常、静止状態にあるが、運動や外傷等の刺激によって至適な数まで増殖して、分化し、互いに融合したり既存の筋細胞に融合して、筋管細胞を形成し、最終的に収縮機能を持つ筋線維を形成することで、筋を修復させる。しかし、高齢期の筋サテライト細胞では、増殖能や分化能の低下によって筋再生が正常に行われておらず、その結果、加齢性筋肉減弱症が引き起こされることが示唆されている。したがって、筋サテライト細胞の増殖能や分化能を向上させるような因子の同定やその作用機序の解明が必要とされている。近年、非選択性の陽イオンチャネルであるTRPV1チャネルは、サイトカインの産生を介して、様々な細胞おいて多種のタンパク質と相互作用し、細胞の増殖や分化の調節に重要な役割を果たしていることが明らかにされており、筋サテライト細胞でも同様の役割が期待される。本年度は、TRPV1チャネルの活性化が筋サテライト細胞の増殖および分化に及ぼす影響とその機序を培養実験系で明らかにすることを目的とした。株化された細胞(C2C12細胞)およびマウス(10週齢)から単離、培養した筋サテライト細胞を用いて、TRPV1のアゴニストであるカプサイシンで刺激し、細胞の数や形態、分子生物学的手法(タンパク質や遺伝子発現量、遺伝子のノックダウン)によって細胞の増殖能や分化能を評価した。その結果、TRPV1の活性化は、inteleukin(IL)-4やIL-6を産生することにより、それらにより活性化される細胞内情報伝達系およびその標的遺伝子の発現を介して、筋サテライト細胞の増殖能や分化能を調節している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に進展していると判断した理由は、申請者らがこれまで着目してきた因子(IL-6)を産生する新たな経路を明らかにしたことにより、新たな検討課題が出てきたため、当初の目的を完全には達成できていないと判断したためである。しかしながら、研究の発展性という観点では、次年度に向けて非常に良い結果が得られていると考えている。
現在までの達成度にも記述したように、申請者らがこれまで着目してきた因子(IL-6)を産生する新たな経路を明らかにできたため、次年度以降は、TRPV1の活性化と筋サテライト細胞の増殖能や分化能との関係を明らかにしていく予定である。具体的に、平成26年度は、TRPV1の活性化が筋損傷・再生過程に及ぼす影響とその機序を初年度に確立した方法によってin vivoレベルで検討する。さらにTRPV1の活性化が高齢期筋サテライト細胞の増殖能や分化能に及ぼす影響とその機序を明らかにする予定である。
次年度使用額が生じたのは、本年度新たな検討課題が創出され、当初予定していた物品の購入が行われなかったためである。本年度生じた次年度使用額は、予定している目的の達成および新たな検討課題の達成のために必要となる物品の購入費用として、次年度の予定額と併せて使用する予定である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
Journal of St. Marianna University
巻: 4 ページ: 61-67