昨年度、我々は、骨格筋幹細胞である筋衛星(サテライト)細胞および筋分化させた細胞から、サルコペニア発症に関わる生理活性物質(interleukin(IL)-6など)が非選択性陽イオンチャネルであるTRPV1を活性化することによって分泌されることをin vitroで明らかにした。本年度は、TRPV1の活性化が筋サテライト細胞の諸機能に及ぼす影響とその機序、さらに、筋損傷・再生モデルを用いて、筋再生時におけるTRPV1の役割をin vivoレベルで明らかにすることを目的とした。 10週齢のC57BL/6J系雄性マウスの両脚下肢骨格筋より、筋サテライト細胞を単離した。増殖あるいは分化培地中で培養した細胞を、TRPV1のアゴニストであるCapsaicin(CAP)で24および48時間処置[0(CON)、1、10μM]した。遺伝子発現量は、QRT-PCR法、タンパク質の局在と発現量は、免疫蛍光染色法およびウェスタンブロット法によって評価し、遺伝子発現の抑制は、siRNAの導入によって行った。また、前脛骨筋に筋損傷を誘発するcardiotoxinを直接投与し、損傷後5日目までCAPもしくはPBSを連続して投与した。全てのマウスから前頸骨筋を摘出し、面積、核数および筋サテライト細胞数を評価した。in vitroにおいて、CAPが筋サテライト細胞の分化マーカーや筋サテライト細胞の融合に重要であるIL-4の遺伝子発現を有意に増加させた。また、TRPV1の抑制が筋サテライト細胞の融合を阻害するが、外因性のIL-4を添加することによって融合が回復した。in vivoにおいて、再生筋では、中心核を持つ細胞の面積および融合している核数がCAP刺激によって有意に増加した。しかしながら、CAP刺激は筋サテライト細胞数に影響を及ぼさなかった。 これらの結果より、TRPV1の活性化は、IL-4の分泌を引き起こし、筋サテライト細胞の分化・融合および筋再生を促進する可能性が示唆された。
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