これまでに静的ストレッチングが伸長部位局所の血管拡張機能を向上させる急性の効果があることを報告し,さらに血液循環の亢進に効果的な静的ストレッチングの処方条件を明らかにしてきた.食後高血糖の状態が長期間継続すると,血管内皮機能障害を引き起こし動脈硬化の発症に寄与することが報告されている.こうしたことから最終年度は,静的ストレッチングがもたらす血糖値低下作用の解明と食後高血糖に対するストレッチングの効果を検証した.健常成人女性8名を対象に,一過性のストレッチングが糖負荷後の血糖値低下作用を有するかどうか,糖負荷後に受動的な静的ストレッチングを実施して,その際の血糖値の変化を座位保持の対照条件と比較した.経口ブドウ糖負荷試験の30分経過後からストレッチングを30分実施する条件と座位安静を保持する条件の2条件で順序無作為に実施した.その結果,ストレッチング条件では,30分の血糖値と比較して60,90,120分の血糖値が有意に低値を示したのに対し,安静保持条件では,30分と60分の血糖値との間に有意な差がなく,30分の血糖値と比較して90分,120分の血糖値が有意に低値を示した.糖負荷30分後から60分までの血糖値降下量は,SST条件が安静保持条件よりも有意に高値を示した.食後高血糖を示した1名の症例において糖負荷後にストレッチングを行うことで,食後高血糖の改善の急性効果が認められた.これらのことから,ストレッチングには血糖値の上昇を抑制させる作用があることが示唆された.したがって,本研究成果は,高血糖に伴う動脈硬化症の発症予防にストレッチングが有効であることを示唆するものと考えられた.ストレッチングは,運動強度が低く,関節への負担が少ない安全性の高い運動であり,低体力者,高齢者でも実施できることから,本研究成果の応用が可能な対象者の範囲は広いと考える.
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