本研究は、膝前十字靱帯損傷に代表される重篤なスポーツ外傷が、予測的かつ意識下な姿勢制御能の獲得によって予防されるかを検討するため、研究期間を通じて1)予測的かつ意識下な姿勢制御能のトレーナビリティ−の確認、2)トレーニングおよびパフォーマンス評価を行うための計測環境の構築、3)アスリートを対象とした介入実験、を実施した。 平成24年、25年度を通じて、上記課題の1,2)を滞りなく実施することができた。その成果として、例えばボールゲームなどで選手の注意が相手選手やボールの行方に向けられた状況下でも、平行して行われるジャンプ着地や方向変換中の姿勢制御(姿勢安定)は獲得されることが確認された。また予測的姿勢制御スキルを向上させるためには、認知タスクと姿勢制御タスクを同時並行で行うデュアルタスクトレーニングが適していることが明らかになった。 最終年度である平成26年度は、大学女子ハンドボール選手10名を対象として、予測的姿勢制御スキルのトレーニング前後で、膝前十字靱帯損傷のリスクと関連する片脚着地時の膝外反変位(膝外反角度とは本来膝が有する屈曲進展ではなく、下腿が外側へ変位する副運動であり、過度の場合、靭帯損傷に至る)が軽減するかを検討した。その結果、10名中6名の選手でトレーニング後の膝外反変位が有意に軽減したことが示された。 これら一連の研究の意義は、従前のスポーツ外傷予防方策に対して、認知的(予測)要素の重要性を加味できたこと、また、実際のアスリート(大学女子ハンドボール選手)を対象に介入を行い、膝前十字靱帯損傷のリスク軽減に期待が持てる結果を取得できたことである。
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