研究課題/領域番号 |
24700721
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田中 誠二 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 講師 (60561553)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 占領期 / GHQ/SCAP / 感染症対策 / 学校 / 衛生教育 |
研究概要 |
本年度は、占領期日本の学校における感染症対策が戦後の公衆衛生政策の進展といかに関わりをもちながら展開されたのか把握することを課題とし、GHQ/SCAP(連合国最高司令官総司令部)と日本政府の動きに着目して文献的に検討した。主な史資料は、国立国会図書館憲政資料室に所蔵されている占領関係資料のうちGHQ/SCAP/PHW(公衆衛生福祉局)が作成・配布した「Weekly Bulletin」(週刊広報:毎週の実務記録)、国立公文書館に所蔵される日本(政府)側の行政文書、文部省によって編纂された「学制百年史」・「学校保健百年史」などである。 終戦翌年の1946(昭21)年3月15日、文部省は「学校伝染病予防ニ関スル件」の通達を出し、そのなかで痘瘡と発疹チフスの予防対策を指示したが、これは1945(昭20)年末から1946(昭21)年はじめにかけて両疾患が都市部(東京都、大阪府、兵庫県など)を中心に大流行したことと深く関係していることが確認された。GHQ/SCAPの数度にわたる指令を受け、日本政府が多方面にわたって対応策を立案・実施する様子が明らかになった。 さらに、本年度は、より具体的な事例研究への着手として滋賀県彦根市の(土着)マラリア予防教育に着目し、市が独自に製作した教育映画『翼もつ熱病』の内容分析を試みた。この映画は、当時、学校や公民館、寺などで上映され、児童・生徒だけでなく彦根市民全体の衛生教育に広く活用されたものである。映画には、例えばマラリア原虫が赤血球のなかで分裂を繰り返す様子や感染によって発現する症状の解説、薬剤散布・水面埋め立てによる媒介蚊の撲滅活動などが収録されており、視覚に直接訴える「映像」を通じて住民の理解を促す工夫が随所に見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で取り上げる学校保健は、いわば「教育」と「保健」が合流する領域である。GHQ/SCAPによる占領政策が「間接統治」の形態のもとに実施されたことを踏まえれば、本研究では教育的側面として[CIE(民間情報教育局)]と[文部省]、保健的側面として[PHW(公衆衛生福祉局)]と[厚生省]のそれぞれを視野に収めた検討が不可欠である。 本年度は占領関係資料のうち、主にPHWの活動を系統的・縦断的に把握することが可能な「Weekly Bulletin」を検討することができたが、一方でCIE文書の検討作業については当初の計画よりやや遅れ気味である(「Weekly Bulletin」の検討にあたっては杉田による復刻版を活用することで効率的に研究を進めることができた)。膨大な史資料群の中から関連記述を収集・整理する作業は容易ではないが、次年度以降の継続課題として引き続き検討を進める予定である。 以上の点も含めて、当初予定していた(年度別の)研究計画にやや前後した部分はあるものの、本研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に取り組んだ課題が主に政策レベルの研究であったのに対し、今後は(初年度の成果を踏まえながら)占領期の学校における感染症対策の実践・実態に踏み込んだ検討を試みる。 第2年度(平成25年度)は、占領期の学校で取り組まれた感染症対策・予防教育の具体的内容と方法を明らかにすることに重点を置く。都道府県を対象とした史資料の発掘および収集により、1) 学校における感染症対策の具体的内容(例. 手洗い・うがいの励行、清掃、鼠族昆虫駆除など)と方法・組織、2) 感染症予防教育の内容と方法 に関する記述を整理する。2) については「教材」の分析を含むが、この時期はGHQ/SCAPによる民主化促進プログラムの一環として16ミリ教育映画(CIE映画)を活用した啓蒙活動が各地で展開されている。地域単位で巡回上映されたもので学校教育で活用された教材ではないが、多くの子どもたちが観賞した背景や感染症予防を含む衛生関係のフィルムが多く含まれていることを踏まえ本研究の対象として扱う。CIE映画はその一部が復刻され徳島県文書館等で閲覧が可能であるため現地調査を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究初年度(平成24年度)の研究成果として論文を執筆・投稿したが現在も審査が続いており、雑誌論文への掲載が年度内に決定しなかったことから研究成果発表費用(投稿料・別刷代など)として使用を予定していた予算が第2年度へ繰り越しとなった。審査は現段階で順調に進んでいることから、そのための費用として次年度に使用する予定である。
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