研究課題/領域番号 |
24700721
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田中 誠二 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 講師 (60561553)
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キーワード | 占領期 / 感染症対策 / 衛生教育 / 公衆衛生 |
研究概要 |
本年度は、占領期日本の学校(と地域)で取り組まれた感染症対策・予防教育の具体的内容とその方法を把握することを課題とし、史資料の探索・収集作業を実施した。前年度と同様に、国立国会図書館憲政資料室に所蔵されているGHQ/SCAP(連合国最高司令官総司令部)文書を用いた検討を中心に、併せて日本(政府)側の行政文書や当時の雑誌・新聞記事、映像記録など調査の対象をやや広く設定して関連する記述の整理、事柄の把握に努めた。 本年度の研究課題を進めるなかで特に注目したのは、「公衆衛生列車」(Public Health Train)の取り組みであった。公衆衛生列車とは、衛生知識の普及・啓蒙を目的として公衆衛生(感染症予防含む)や福祉に関する模型、写真、ポスター、図などを車内に陳列した列車で、1947(昭22)年11月の原宿駅(東京)を皮切りに全国各地を巡回・展示した。厚生省主催で実施されたこの取り組みには占領軍(特に公衆衛生福祉局(PHW)と民間情報教育局(CIE))が関与していたこと、児童・生徒を含む多くの人びとが観覧に訪れたことなどが明らかになった。同時期の「CIE教育映画」(ナトコ映画などと呼ばれる)の巡回上映については比較的多くの研究成果がまとめられてきたが、「公衆衛生列車」についてはこれまでほとんど検討がなされておらず不明な点が多い。両事業の関係性にも着目しながら、その手法や役割・成果などを多角的に検証していく必要がある。 本年度は、以上の占領期における衛生教育(特に「公衆衛生列車」)に関わる調査結果を、第72回日本公衆衛生学会総会(三重)、第78回日本民族衛生学会総会(佐賀)にて発表した。また、前年度における研究成果の1つが学術論文として日本医史学雑誌(第59巻3号)に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第2年度を終えた現時点で研究はおおむね順調に進行している。本研究は、占領期日本の学校において感染症対策・予防教育がどのように展開されたのか、戦後の公衆衛生政策との関係のなかで検討することを目的としている。これまでに、戦後における感染症(例えば、1946(昭21)年の天然痘・発疹チフス)の流行が学校現場における予防対策・教育に深く関係したことや、児童・生徒が学校外の様ざまな場で衛生知識を獲得する機会(例えば、「CIE教育映画」や「公衆衛生列車」など)を得たことなどが考察された。特に、「公衆衛生列車」の存在とその運行による衛生教育活動の展開について(現時点では概略に留まるが)把握できた点は当初の研究計画段階で予想していなかった収穫であり、新たな切り口からの今後の研究進展が期待できる。占領軍側(特にCIE(民間情報教育局)とPHW(公衆衛生福祉局))、日本側(特に文部省、厚生省)のそれぞれを視野に収めた検討を今後も進めていく必要がある。 以上の点をふくめて研究計画にやや前後した部分などがあるが、本研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度(平成26年度)は、占領期の学校における感染症対策・予防教育が家庭や地域といかに連関しながら展開されたのかについて重点を置いた検討を進める。これまでの研究過程において、当時、多様な衛生教育が学校の内外で展開されたことを改めて確認することができた。例えば、第2年度の研究において着目した「公衆衛生列車」の巡回・展示による衛生教育活動について、ある地域ではその運行が契機となって1つの健康イベント(結核相談、性病予防の資料展示、演芸会、講演会など)を形成し、児童・生徒を含む多数の人びとの参加によって大きな賑わいをみせた事例が確認される。このように、感染症対策・教育が学校・家庭・地域の連携によって協力的に推進された取り組みを事例的に拾い出し、それを可能とした諸条件や役割・成果を考察する。また、最終年度の後半にはこれまでの研究成果を総まとめし、学会報告、学術雑誌への執筆・投稿の準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に図書等の購入による支出が予定よりも抑えられため。また、第2年度(平成25年度)の研究成果として論文を執筆・投稿したが現在も審査が続いており学術雑誌への掲載が年度内に決定しなかったため。 現在投稿中の学術論文は現段階で順調に審査が進んでおり、研究成果発表費用として次年度の早い段階で使用する予定である。その他、調査や学会報告のための国内旅費、図書等の購入、必要に応じて謝金などによる支出を計画的に進める。
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