本研究課題の最終年度となる今年度は、占領期日本において児童・生徒を対象とする感染症対策・予防教育が学校や家庭、地域の連携によって協力的に推進された事例を拾い出し検討することを中心課題とした。前年度(第2年度)の研究過程において見出され、おおよその輪郭が明らかになった「公衆衛生列車(Public Health Train)」の運行・巡回展示(厚生省主催)による衛生教育活動をその具体的事例として取り上げ、詳細な実態把握に努めるとともに、児童・生徒を含む地域の健康形成にいかに影響したか多面的に考察することを目指した。 国立国会図書館憲政資料室所蔵のGHQ/SCAP文書のうち新たに見つかった北海道における「公衆衛生列車」運行のレポートには、1948(昭23)年7月末から約1か月間で道内全8箇所を巡回・展示した際の様子が詳しく記録されている。結核や性感染症などの感染症予防や栄養摂取に関する車内展示(模型や写真、ポスターなど)のほか、紙芝居や映画鑑賞会などもあわせて企画され、児童・生徒を含む多くの人びとが興味をもって健康情報に触れる機会となった。厚生省職員が乗員として中心的に運営にあたりながら、実際には、停車(展示)エリアの市の衛生担当者や保健所、医師会、薬剤師会などが協力して広報活動や展示物の説明、健康相談に携わっていた。一般市民への健康知識の普及・啓蒙を意図した事業が、結果として保健・医療に関わる組織や人びとの「協働」を促すきっかけとなったことが考察された。 本年度は、以上の占領期における衛生教育に関わる調査結果を、第115回日本医史学会総会(福岡)、第79回日本民族衛生学会総会(茨城)にて発表した。また、前年度における研究成果の1つが学術論文として日本医史学雑誌(第60巻3号)に掲載された。
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