研究課題/領域番号 |
24700729
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
加藤 有一 札幌医科大学, 医療人育成センター, 助教 (90363689)
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キーワード | ストレス / 健康 / 血圧 / 回復性 / 圧反射 |
研究概要 |
本研究は,3年以上の縦断的行動疫学研究から,性格特性の個人差と身体健康との心理-生物学的な繋がりを明らかにすべく計画された(研究目的)。質問紙LOT-Rによる楽観性傾向等の性格特性が,精神的ストレス時血圧および神経性圧反射(nBRS)の回復機能を媒介として身体健康へ影響するモデルを検証する。なお,nBRSは当該年度から分析に加えた。本課題実施者が特許出願しているものであり,血圧を一定に保持する圧反射機序の迷走神経機能を,器質的血管硬化度の影響を受けずに評価する技術である(発明者:加藤有一,特願2013-074027)。 当該年度は,上記計画の2年目である。前年度から計48名(平均追跡年数3.3年)の追跡調査を実施した。各性格特性とnBRSないし血圧の反応性,及び,回復機能(平均回復率),そして身体健康度の関連を調査した。開始年度と追跡年度に測定した各測度の変化値を算出し,構造方程式モデルおよび媒介分析を追跡年数と追跡時年齢を制御変数として実施した。 結果を概略すれば,悲観性特性が高い個人は,ストレス負荷後30秒以内に迷走神経系活動の過剰亢進を起こすことが判明した(標準化係数 .36)。この過剰亢進により,一時的に血圧は極端に下がるが(精神ストレス性低血圧),その後,反動で持続的に上昇するリバウンドが生じていた(標準化係数 -. 38)。このリバウンドによる血圧回復機能の持続的な低下は,年齢を経るごとに上昇する仰臥位血圧と関連しており(標準化係数 -. 41),精神的ストレスが影響する通常時血圧の上昇(ひいては高血圧症への進展)に関わる自律神経メカニズムを示唆する。なお,上記の結果を媒介分析した結果,悲観性傾向と仰臥位血圧の年度変化に関する間接効果は有意に認められた(間接効果= .20, ブートストラップ95%信頼区間=[ .02, .83] )。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度で計48名(平均追跡年数3.3年,追跡調査時平均年齢24.1歳)の追跡調査結果を集積した。研究課題の2年目であり,年度途中に機器の故障による中断があったものの,サンプルの集積もおおむね順調である。本年度から,神経性圧反射測定を加え,精神的ストレスと身体健康の関連を詳細に調査することが可能となった。本年度の予備分析においても,この測度を加えることによって,精神的ストレス負荷後の持続的回復機能の低下が,身体健康に悪影響を与えている仮説を支持すると共に,この持続的な回復機能の低下が生じる原因,すなわち,精神的ストレスによる急性低血圧反応の問題を提起する発見があった。従って,本研究課題の進展状況は,「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,研究計画に従い,当該年度に引き続き追跡調査を実施する予定である。また,神経性圧反射感度を使用し,自律神経系機能における詳細な生理的ストレス構造を明らかにする計画である。ただし,神経性圧反射感度の測定が必要となったため,次年度には,これを自動的に算出するプログラムを作成する費用を当初の計画に加えた。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は,主に2つある。1つには,測定装置の故障により,1時期実験調査を実施できなかったためである。当該課題は縦断研究であり,研究開始年と同時期(季節)に参加者を募集し測定調査を行う計画である。この時期に装置が不調であったため,測定できなかった参加者においては,次年度に研究調査を延期した。 もうひとつには,測定および分析に,新たな生理指標である神経性圧反射を追加分析するよう計画を変更したため,この分析に関わる分析プログラムを予備作成した。この期間に盲検が実施できなかったため,これに関わる臨時雇用期間を次年度へ延期した。 前年度に測定できなかった参加予定者の研究調査費と,盲検を含む総合的な最終分析を実施するための臨時雇用費用に充てる計画である。
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