多種多様なライフイベントは,時にストレスとして身体健康に影響することが一般に言われている。本研究は、その生理学的メカニズムを探る目的で、エントリー時から3年以上にわたる追跡調査を実施した。具体的には、心理社会的ストレス(難易度の高い暗算課題)時の血圧や自律神経の反応とその後の回復機能をエントリー時、そして、追跡年時に2度以上測定、分析し、性格(怒り表出および抑制特性、楽観性、悲観性、うつ等)や行動特性(運動時間や食行動)の個人差と心血管健康(安静時血圧、BMI、運動時間などから算出される健康度)との心理-生物学的な繋がりを調査した。男性計56名(エントリー時20.4歳。平均追跡年数は3.5年)の追跡調査から、拡張期血圧や心血管健康が年々悪化する個人要因として、精神的ストレス後の低血圧反応とその後のリバウンド反応が可能性として浮かび上がってきた。すなわち、ストレス時に血圧が上昇していることよりも、そのストレスがなくなった後に起こる過剰な回復反応(この場合、血圧の過剰な低下)とこれを補償するために生じるその後の持続的なリバウンド(この場合、血圧の持続的上昇)が起こる個人ほど、年々怒り抑制力や悲観性が高くなっており、かつ、安静時血圧が高くなっていく傾向が見えてきた。 本研究は、従来、ストレス中の身体反応が健康に影響を与えると提案されてきた中、それよりもむしろ、その後の回復機能の低下が、個人の性格変化や健康に悪影響を及ぼす可能性が高いことを示す。 現代社会は、ストレス社会とも呼ばれ、これに対処する健康増進プログラムは、少子高齢化が進む中、全世代が健康に生き、働くという視点からも重要な国策となってきている。本研究は、このプログラム作成において、ストレス回復に焦点を当てることの意義を補う知見となれば幸甚である。
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