本研究は,生活中の行動・生理計測データから,抑うつ感などのストレス状態を評価できるかどうかを検証することを目的とした.前半部では,生活中の行動・生理・心理データの蓄積を行った.健常な研究協力者5名(健常者の中ではSDS質問紙で評価される主観的抑うつ感が比較的高い群)は実験住宅に3ヶ月間滞在した.その間の研究協力者の身体加速度(活動度),心拍変動,心理状態の主観評価スコアと住宅内センサ信号を計測した.後半部では,データの解析を行った.計測データより,休息時間の継続時間の累積確率密度分布から算出されるべき乗指数γ(東京大学中村亨先生らが鬱病との関連性があることを報告した指標)を各日毎に算出した.その値と主観的抑うつ状態スコア(SDS)との間に,統計的有意な相関を示した研究協力者は5名中2名(A,B)であった.残り3名のうち1名(C)は,3ヶ月間の中で疲労感が最も高かった日にγが3ヶ月間の中で2番目に低い値を示した.これと別の1名(D)はホームズの社会適応評価尺度が悪い意味で点数が非常に高いことが発生した日に,γが3ヶ月間の中で最も高い値を示した.残る1名の研究協力者(E)は主観的抑うつ状態スコア(SDS)と睡眠開始3時間の平均心拍数との間に統計的有意な相関が観測された.以上から,生活中の休息時間の継続時間の累積確率密度分布もしくは睡眠時心拍情報の一部には,抑うつ状態を反映する成分が含まれることが示唆された.さらに,最終年度では,6名の健常者を対象に2ヶ月記録された心拍変動データから,心拍変動の振幅の非一様性指標(高周波(HF)帯域の瞬時振幅の標準偏差)を算出し,同時に記録された主観的緊張感スコアとの相関性を調べた.その結果,6名中4名について,両者との間に統計的有意な相関を示し,従来指標(LF/HF)と同等かそれ以上に相関があることが示唆された.
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