研究課題
激しい肉体的接触を行うコンタクトスポーツは、創傷や打撲を伴い、これらの部位に化膿性疾患を伴うことが少なくない。化膿性疾患の多くは、黄色ブドウ球菌による皮膚感染症が原因である。黄色ブドウ球菌は、コンタクトスポーツにおいてチーム内で急速に伝播する。H24年度は、柔道、アメリカンフットボール、ラグビーに参加する選手の黄色ブドウ球菌の保菌状況について調べた。対象:本研究の対象は筑波大学アメリカンフットボール部36名、ラグビー部70名、柔道48名である。サンプルの採材:被験者の鼻腔から滅菌綿棒を用いて採材を行う。被験者一人に対して毎月1回、年間6~8回程度の採材を行った。【結果の概要】①各競技スポーツにおける黄色ブドウ球菌の持続的保菌者は柔道で13%、アメリカンフットボール16.6%、ラグビーで 17%であった。②いずれの競技種目においても持続保菌者は、間欠的及び一時的菌者に比べ鼻腔内に多量に保菌していることが分かった。③調査期間中、ラグビーでは夏合宿後から秋の公式戦黄色ブドウ球菌感染症の集団発生があり、発生の特徴としては、フォアードの選手、なかでもフランカーの選手は他のポジションの選手と比べ発症者が多かった。感染部位の多くは下腿に集中していた。【本研究結果の重要性】スポーツ現場における長期間の黄色ブドウ球菌に関するサーベイの情報はほとんどなく、本感染症に対する防疫対策は、旧態依然の対処療法に留まり、科学的データに基づいた対応は行われてはいない。本研究では、チーム内での黄色ブドウ球菌感染症発生時の傾向、及び持続保菌者の割合、持続保菌者が他の保菌者に比べより多くの菌を保菌していること、これらの情報はスポーツ現場において本感染症の防疫対策を確立する上で必要な情報となると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
1:年度当初に計画していた、各競技種目の選手から複数回菌の分離ができ、次年度の解析に必要な検体が採取できたこと。2:発生時にチーム内で菌の拡がりを早期に検出できるシステムを構築できたこと。通常、検体採取から判定まで72時間を要する。本システムでは、24時間での判定が可能になり、選手の安全確保と終息にかかる労力、費用、時間の削減が期待され、さらに確実な介入の判断を下すことが可能となる。3:本研究課題に関連して、論文2報、国内学会1報、国際学会3報の成果が発表された。
<平成25年度>本研究では、スポーツ種目毎の感染経路あるいは流行様式などを調べ、アウトブレイクに至までのパターンを明らかにしようとしている。具体的には、分離菌を型別し、集団内で検出された菌がどの時期からどのように拡がっていったのかを明らかにする。これにより効果的な介入の時期や方法が明確となる。<実験概要>鼻腔内から分離された菌と体表の露出した菌のホモロジーを調べるため、Phage Open Reading Frame Typing法(POT法)14を用いた遺伝子解析を行う。先ず、培地上に発育したSAの青色のコロニーを釣菌し、トリプトソーヤブイヨン(日水製薬、東京)で37℃、18時間培養した。培養液0.3 mlから菌のDNA抽出を行った。DNAの回収には、QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen、USA)を使用し、添付のマニュアルに従って操作する。次に回収したDNAについてPOTキット黄色ブドウ球菌用(関東化学、東京)を用いて遺伝子解析を行う。本法は菌株識別に有効なOpen Reading Frameを選び,マルチプレックスPCR を用いた2 回のアッセイにより22 の増幅産物を検出する。検出された増幅産物はPOT 1~3 に分類さし、割り当てられたPOT 係数から、3 つの数字からなるPOT 型(POT 1-2-3)が決定する。異なる分離株のPOT 型が一致すれば遺伝的に極めて近い株という判断が可能となる。POT型の違いから型別判定をする。集団内で分離された菌株の型別を時期毎に比較し、どの時期にどの型の菌が集団内に侵入したのかが明らかになる。
H25年度の研究計画を遂行する上で必要な以下の経費を計上する。①分子疫学解析キット(黄色ブドウ球菌用)1キット(120回分)x2 166000円 ②遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX Ver.10 399000円 ③成果発表(ヨーロッパスポーツ医学会への参加旅費 350000円 ④成果発表(体力医学会への参加旅費)50000円H25年度への繰越額が生じた理由繰越額:9150円理由:学術論文による成果発表を予定し、英文校閲のための予算として計上していたが、H24年度に論文投稿のために必要なデータが揃わなかったために、予算の繰越が生じた。
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Proceedings of 4th International Conference on Sport and Exercise
ページ: 105-112
筑波大学体育系紀要
巻: 35 ページ: 17-25