研究課題
若手研究(B)
当該年度にて申請者は、レプチン欠損によりメタボリックシンドローム病態を呈するob/obマウスに結核菌感染モデルのプロトタイプであるM. bovis BCG菌株を尾静脈し、その4週後におけるマウスの病態変動について検証を行った。なお対照群にはBCG菌懸濁の際に用いたPBS(-)を投与した。食餌摂取量は対照群とBCG感染群間に差がなかったにもかかわらず、BCG菌感染群の腎臓周辺脂肪組織重量、ならびに肝臓の中性脂質濃度と総コレステロール濃度は対照群よりも有意に低い値を示した。また、BCG感染群の血中インスリン濃度とインスリ抵抗性(HOMA-IR)は有意に低く、血中高分子量アディポネクチン濃度は有意に高くなっていた。これらの結果はBCG菌に感染することによってob/obマウスのメタボリックシンドローム病態の進展が抑制されていることを示すものであった。当該年度の研究によって得られた上記の結果は、申請者の予想を裏切るものであった。すなわち申請者の「結核菌感染によりメタボリックシンドローム病態が増悪化する」という予想とは真逆のものであった。しかしながら、BCG菌感染によって影響を受ける組織が腎臓周辺脂肪組織と肝臓であることを絞り込むことができ、BCG感染によるメタボリックシンドローム病態の変動について明らかにするためには、この二つ組織が重要であることが示された。また、当該年度の研究においては、マウスの熱生産・エネルギー消費の特異的組織である褐色脂肪組織の重量がBCG菌感染によって有意に軽くなる結果も得られていた。このBCG菌感染が褐色脂肪組織に与える影響については今後十分な考察が必要となるが、結核菌の潜伏組織の新たな候補として褐色脂肪組織が挙げられるという非常に興味深い結果が得られたと申請者は考えている。
2: おおむね順調に進展している
当該申請者は経済弱者層において増加が懸念される「肥満」と「結核」の両疾患を結びつけ、各疾患が一方の疾患に与える影響を明確化することを最大の目的として研究に取り組んでいる。特に結核菌感染がメタボリックシンドローム病態に与える影響についての基礎的知見を得ることが当該研究の目的である。現在までに申請者は、BCG菌感染を結核のプロトタイプとして用いて、マウスがBCG菌に感染することによってメタボリックシンドローム病態の進展が大きく変動することを見出した。さらにはBCG菌感染によって影響をうける組織を明らかにし、インスリン抵抗性が関与する病態(糖尿病など)が特に影響をうける可能性を見出した。またBCG感染によって褐色脂肪組織の発達が影響をうけることも示しており、褐色脂肪組織が結核菌の潜伏先候補となる可能性を僅かであるが示しており、申請者が目的としている「肥満」と「結核」の両疾患の相互関係を明らかにする基礎地盤を固めることが出来たと申請者は考えている。以上の理由から、総合的な自己評価としては「おおむね順調に進展している」とした。
当該年度の研究成果を踏まえた上で、申請者は次年度において主に以下の2点について明らかにしたいと考えている。1)BCG菌感染により影響を受ける組織におけるBCG菌と免疫担当細胞の動態変動BCG菌感染により影響をうける組織である腎臓周辺脂肪組織重量、肝臓、ならびに褐色脂肪組織におけるBCG菌の存在について検証を行う。本実験で用いているBCG菌は蛍光蛋白質EGFPが発現する組み換え体であるため、BCG菌感染マウスの各組織の凍結病理組織切片を作製して、蛍光顕微鏡下でBCG菌数の確認、ならびにBCG菌が存在する部位について明らかにする。また免疫担当細胞についても各マーカーを指標として免疫染色して、各組織における免疫担当細胞の動態変動について議論する。2)培養細胞を用いた脂質代謝変動の検証BCG菌感染によって脂肪組織と肝臓が影響を受けるために、各組織の培養細胞としてマウスの前駆脂肪細胞である3T3-L1細胞を脂肪細胞へ分化させた脂肪細胞株と、ヒト肝がん由来細胞株HepG2細胞を用いて、In vitroにてBCGが各組織の脂質代謝の変動について、様々なパラメータを評価することによって検証する。
次年度における研究費は、主にマウス(特にob/obマウス)の購入と細胞培養のための器具類の購入に使用する。また論文を作製するためのツールとしてEndNoteの購入、ならびに年度末の学会参加費にも使用する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件)
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