研究課題/領域番号 |
24700755
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
稲福 征志 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 研究員 (90457458)
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キーワード | 生活習慣病 / 脂肪肝 / 結核 / BCG菌 |
研究概要 |
平成24年度にて、肥満・糖尿病モデル動物であるob/obマウスに結核菌感染のプロトタイプモデルMycobacterium bovis BCG菌株(BCG菌)を尾静脈より投与して、メタボリックシンドローム病態の変動について検証を行った。BCG菌投与による食餌摂取量への影響は認められなかったにもかかわらず、腎臓周辺脂肪組織重量ならびに肝臓の中性脂質濃度と総コレステロール濃度が対照群よりも有意に低下していた。さらには、BCG投与群の血中インスリン濃度およびインスリン抵抗性指数であるHOMA-IRも有意に低下しており、高分子量アディポネクチン濃度は有意に上昇していた。これらの結果はBCG菌を投与することによってob/obマウスのメタボリックシンドローム病態の進展が抑制されていることを示すものであった。 当該年度は、BCG菌投与による脂肪肝の発症・進展抑制の分子機序を解明すべく、肝臓の脂質代謝に焦点を当てた解析を試みた。BCG投与群の肝臓脂質合成関連酵素遺伝子の発現は軒並み低下しており、更には肝臓の脂肪酸合成酵素の活性と脂肪酸合成系にNADPHを供給するリンゴ酸酵素の活性もBCG菌投与群にて有意に低下していたことから、BCG菌投与による肝臓の脂質合成抑制が明らかとなった。肝臓の脂質分解関連酵素の遺伝子発現も同様に解析を行ったが一様な変動は認められず、本研究ではBCG菌投与による肝臓の脂質分解系の変動は明らかにできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究は、経済弱者層において増加が懸念される「肥満」と「結核」の両疾患を結びつけ、各疾患が一方の疾患に与える影響を明確化することを最大の目的としている。特に結核菌感染がメタボリックシンドローム病態に与える影響についての基礎的知見を得るために、結核感染のプロトタイプモデルとして用いたBCG菌投与を利用して、メタボリックシンドローム病態に及ぼす影響について検証した。当該研究はBCG菌を投与することによって影響をうける組織を明らかにし、インスリン抵抗性が関与する病態(糖尿病や脂肪肝など)が特に変動するを見出した。また、BCG菌投与による脂肪肝の改善・抑制には肝臓の脂質合成系の抑制が大きな要因の一つであることが明らかとなった。以上の結果は、「結核」による「メタボリックシンドローム」病態の変動における基礎的知見を得るに十分足るものであると申請者は考えている。従って、申請者の総合的な自己評価としては「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の進展方策として、主に以下の3点について明らかにしたいと考えている。 (1)BCG菌投与による肝臓脂質代謝変動の経時的変化: BCG菌投与による肝臓の脂質代謝、特に脂質合成系の抑制が、BCG菌投与後どのような時点で発生するか明らかにする事によって、分子機序解明の最適化を試みる。 (2)培養細胞を用いた脂質代謝変動の検証: BCG菌投与による脂肪組織と肝臓の変動が認められたため、各組織の培養細胞としてマウスの前駆脂肪細胞である3T3-L1細胞を脂肪細胞へ分化させた脂肪細胞株とヒト肝がん由来細胞株HepG2細胞を用いることで、BCG菌が各組織の脂質代謝の変動について検証する。 (3)結核菌を用いた評価: 当該研究では結核感染のプロトタイプモデルとしてBCG菌投与を利用したが、当該研究の最大の目的である「肥満」と「結核」の両疾患の相互関係を明らかにするためには、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を用いた研究を遂行する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
事業期間内に予定通り実験を遂行したが、予想とは異なる非常に興味深い結果が得られたため計画を変更して、追加実験を行い再現性の確認を行ったため、成果発表が予定より遅れた。 次年度においては、成果報告として学術論文を投稿するために未使用額はその経費に充てることとしたい。
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