先進国では「肥満」と「結核」が低所得者層に集積することが懸念される。本研究は結核ワクチンとして利用される弱毒株BCG菌を用いて、結核菌感染がメタボリックシンドローム病態に与える影響について検証を行った。 BCG菌の投与は肥満・2型糖尿病モデルであるob/obマウスの血中炎症性サイトカイン濃度の上昇を誘導しており、申請者はBCG菌投与はメタボリックシンドローム病態を増悪化させると予想していたが、当該研究により得られた結果は予想とは真逆のものであった。BCG菌投与群のインスリン抵抗性の指標(HOMA-IR)値は低下しており、BCG菌投与によるインスリン抵抗性の改善が示唆された。また、BCG菌投与群の肝臓における脂質合成と脂質蓄積は顕著に低下しており、BCG菌投与によって脂肪肝の進行が抑制されていた。 BCG菌が肝臓の脂質代謝に与える影響について検証するために、ヒト肝癌由来HepG2細胞にBCG菌を処理したところ、脂質合成代謝の変動は認められなかったものの、脂肪酸暴露によって引き起こされるインスリン抵抗性の緩和が認められた。近年、脂肪酸誘導インスリン抵抗性には小胞体ストレスの関与が注目されており、脂肪酸暴露したHepG2細胞における小胞体ストレスの発生はBCG菌処理によって抑制されていた。従って、BCG菌は小胞体ストレス抑制を介して脂肪酸誘導インスリン抵抗性を緩和することで、マウスの脂肪肝の進行を抑制していることが示唆された。 また、BCG菌のマウスへの投与は血中の高分子量アディポネクチン濃度を上昇させた。アディポネクチンは脂肪細胞特異的に産出されるホルモンである。従って、BCG菌は脂肪細胞にも影響をあたえること考えることが出来る。培養脂肪細胞(3T3-L1)にBCG菌を処理すると脂肪蓄積の減少が認められた。以上の結果より、BCG菌がメタボリックシンドロームの予防・改善の分子基盤として利用できる可能性が示された。
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