研究課題/領域番号 |
24700764
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研究機関 | 新潟医療福祉大学 |
研究代表者 |
川上 心也 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 助教 (60410271)
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キーワード | 視床下部 / Sirt1 / 摂食量調節 / 運動療法 / 肥満予防 |
研究概要 |
Sirt1は、NAD依存性脱アセチル化酵素群(Sirtuin)の一種であり、細胞内の各種の転写因子を調節している。一方、運動は、過食防止といった摂食量の調節に関与すると知られている。本研究は、運動による摂食量の調節が、ラット視床下部内で発現するSirt1の影響を受けるか否かを検討し、その機序について検討するものである。 平成25年度は、視床下部Sirt1が調節する転写因子の一種であるStat3(摂食抑制効果を持つ)の脱アセチル化について検討した。その結果、摂取カロリーの差異および運動の有無による変化はなかったが、非運動群に比べPair-fed群(運動群と同量の飼料を給餌した群)で脱アセチル化が促進されていると分かった。つまり、摂取カロリーが減少すると、視床下部Sirt1の働きが促進され、Stat3の発現量が増加することで、摂取しているカロリーが少ないにも関わらず、摂食量を減少させる調節がなされていると推察された。また、Sirt1の活性化については、いずれの群間にも有意な差が認められなかった。 平成24年度までに、視床下部のSirt1発現量、及びSirt1が調節する転写因子の一種FoxO1(摂食亢進効果を持つ)の発現量について検討していたが、平成25年度の結果も含め、ラットの視床下部Sirt1は、運動によりその発現量は増加するものの、摂食量の調節への関与は、摂取エネルギーが著しく増加もしくは減少した場合に生じると考えられた。 従って、現在、運動による摂食量変化の影響が視床下部Sirt1を介して生じる、という仮説の証明には至っていない。しかし、視床下部Stat3の脱アセチル化については、非運動群と運動群の間で差異がなかったことから、摂取カロリーの強制的な減少によるStat3の脱アセチル化が、運動により打ち消されている可能性も考えられ、今後の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要にも記載した通り、現在までのところ、運動による摂食量変化が視床下部のSirt1を介して生じるという仮説は証明されていない。従って、当初の計画にある、ラット視床下部におけるSirt1の発現部位の検索(免疫組織化学的手法を用いる)について、実施に至っていない。また、計画された飼育期間において、非運動、運動群間での摂食量は、期間前半で有意に差異が存在するものの、期間後半にはその差が認められない日が増加し、摂食量の調節機能が弱まっていることも予想されたため、新たな飼育期間を計画、設定し、動物の飼育を実施した。以上のように、未実施の計画項目の存在と共に、新たな動物飼育も実施したことから、達成度の区分は「(3)やや遅れている」とした。 また、運動による視床下部Sirt1の発現量増加は、過去の報告と同様に観察されていることから、Sirt1を活性化する役割を持つと考えられているp-AMPKの発現量についても検討し、その解析に時間を要したことも計画遅延の一因と考えられる。なお、この結果については、Sirt1発現量同様、飼料の違い(摂取カロリーの多少)による差異を生じなかったが、自発運動群では非運動群およびPair-fed群より有意に増加していたことから、運動はp-AMPKを介して視床下部Sirt1に影響を及ぼすと推察している。
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今後の研究の推進方策 |
前述のとおり、視床下部Stat3の脱アセチル化については、Sirt1を介して運動が影響を与えている可能性も考えられる。従って、計画書の記載通り、Sirt1を活性化する効果を持つレスベラトロールをラットに経口投与し飼育する。これにより、運動の影響を除去した状態で視床下部Sirt1が与える影響について検討できる。 また、運動は、p-AMPKの働きを介し、視床下部のSirt1発現量を増加させると考えられるものの、Sirt1の働きによる摂食量の減少は、運動よりも他の要因により強く調節される可能性も示唆される。実際に、高脂肪食摂取時にはFoxO1の働きが抑制されることから、視床下部Sirt1が、個体の過剰なエネルギー摂取を防ぐため、摂食量を減少させるよう機能すると推察されるためである。従って、運動の有無だけでなく、栄養条件の違いでもSirt1の働きについて検討するために、現在まで採用してきた栄養条件(普通食および高脂肪食)かつ運動条件(非運動および自発運動)で飼育したラットを用い、計画書通り、視床下部内のSirt1、プロオピオメラノコルチン(POMC:摂食抑制効果を持つ)、およびアグーチ関連タンパク質(AgRP:摂食促進効果を持つ)の発現部位を検索する。この実験結果から、運動だけでなく、栄養条件の違いが視床下部の分子機序に与える影響を検討できる。 さらに、運動による視床下部Sirt1の発現量増加の理由を調べるために、Sirt1活性阻害剤の脳室投与の実験も実施可能か検討する。
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