研究課題/領域番号 |
24700775
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
幸 篤武 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 予防開発部, 流動研究員 (00623224)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DXA / テストステロン / 一般住民 / 縦断研究 |
研究概要 |
平成24年度は筋量と血中テストステロン(T)濃度との関連を解明するため、また余暇身体活動の実施習慣の有無が血中T濃度の加齢変化に与える影響を解明するため、以下の解析を実施した。 【解析1】「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査から第6次調査に参加した40歳以上の男性対象者延べ4,187名分のデータを用い、DXAにて測定された四肢筋量を指標とするサルコペニアと血中T濃度との関連について、一般化推定方程式を用いて検討した。サルコペニアのカットオフ値は、四肢筋量を身長の2乗で除したSMI値を用い、日本人男性における若年成人平均値のマイナス2標準偏差(6.87 kg/m2)とした。Tは総T(TT)および遊離T(FT)を指標とし、日本人40歳代平均値のマイナス2標準偏差未満をそれぞれLOW群とした(TT,2.9mg/ml;FT,7.7pg/ml)。一般化推定方程式による解析の結果、FTとサルコペニアとの間に関連を認めた。LOW群におけるサルコペニアの調整済みオッズ比は1.83 (95%信頼区間, 1.04-3.22) であった。本解析の結果は、FTがサルコペニアのバイオマーカーとして有用である可能性を示唆するものであり、我が国におけるサルコペニアの予防・検診体制を構築する上で重要な知見になると考えられた。 【解析2】NILS-LSAの第1次調査と第5次調査に参加した男性、延べ1,485名分のデータを用い、余暇活動歴の有無が約8年間の血中FT濃度の加齢変化に与える影響について線形混合モデルにより検討した。その結果、第5次調査時のFT濃度は、余暇活動実施習慣有り群が無し群と比較して高値を示した。定期的な余暇身体活動の実施は、加齢性の血中FT濃度の低下を緩徐にする可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は男性中高年者約1,200名を対象に14年以上にわたり実施されている「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」から、血中男性ホルモンレベルと四肢筋量、筋力、日常生活動作などとの関連を解析し、アンドロポーズがサルコペニアに及ぼす影響について解明を目指すこと、また日常の身体活動がアンドロポーズと関連するサルコペニアを予防するかについて解明し、身体活動を介したサルコペニア予防法の開発を目指すことを目的としている。 平成24年度は、四肢筋量と血中男性ホルモンレベルの関連についての縦断解析を実施し、その成果を学術雑誌に報告した(Scientific Reports,DOI: 10.1038/srep01818,2013)。また余暇身体活動と血中男性ホルモンレベルの関連について、縦断的な解析を実施し、その成果を報告した(第67回日本体力医学会大会,2012)。さらに、NILS-LSA参加者のデータを用い、筋量、筋力、歩行速度をそれぞれ指標とするサルコペニアの有病率と全国有病者数の推計を行い、その結果を医学情報雑誌等にて報告した(BJN Japan,Vol.3,67-74,2013など)。 また、NILS-LSA参加者の日常歩行量や四肢筋力の縦断変化に関する予備解析についても実施し、次年度以降の研究の遂行に必要な知見を得ることができた。 当該年度において得られた成果は、本研究の目的を達成する上で重要な基礎になると考えられる。また今後の研究遂行に必要な予備知見を得ることができたことで、次年度以降においても研究が順調に進展するものと考えられる。以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、アンドロポーズと筋力及びADL低下を指標とするサルコペニアとの関連について検討する。また日常身体活動が、アンドロポーズと関連するサルコペニアの予防に有効であるかについても検討する。そして性ホルモン代謝に関連する遺伝的素因が、アンドロポーズとサルコペニアの関連に対して、また身体活動とアンドロポーズに関連するサルコペニアとの関係に対して与える影響についても検討を行う。 【解析1】ベースライン時の総及び遊離テストステロン、DHEA-S、性ホルモン結合蛋白の血中濃度の多寡が、その後の握力、上体起こし、膝伸展筋力、膝伸展パワー、歩行能力(歩幅、速度)等の変化及ぼす影響について、縦断的な解析を実施し、その関連性を解明する。 【解析2】歩数、余暇・仕事身体活動実施状況、等を指標とする身体活動が、その後の筋量、筋力、ADLへ与える影響について縦断解析を行い、サルコペニアを予防し得る身体活動様式(種目、強度)や、その実施頻度及び実施量、等について明らかにする。また身体活動と遺伝子多型(代謝, CYP11B、CYP17、CYP19、SRD5A、COMT; 運搬, SHBG; 受容体, AR)を背景とするホルモンレベルの交互作用について解析し、サルコペニア予防に効果的な身体活動条件について、遺伝的素因を考慮したより詳細な提示を行う。 これらの解析は、「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究」の実施により新たにプールされるデータを適宜用いて、実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究はおおむね順調に進展しており、現時点において、研究実施計画の大規模変更の必要性には迫られていない。また、筋力等の測定に必要な機器や、データ保存や解析のための統計システムを含む大規模コンピュータネットワークシステムについても順調に稼働しており、新たな大型研究機器の導入や改修も現時点では必要としていない。従って、研究費の使用計画は概ね当初の計画通りの内訳となる予定である。 平成25年度の研究費使用内訳の予定として、物品費は、「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の調査に必要な記録用紙等を作成するためのコピー用紙やトナー、そして調査で得られたデータを保存するための電子記録媒体(HDD、BD-R)等、消耗品の購入が中心となる。また一般住民を対象に実施される四肢筋力の測定やADLの評価、そして調査で得られたデータの整理にあたる研究補助者の雇用に必要な人件費・謝金についても計上している。特に筋力測定の実施、またADLデータの集計及び管理には莫大な労力と時間を必要とするため、是非とも研究補助者が必要である。さらに本研究の成果を広く公表するため、国内外の学会参加にかかる旅費や、学術論文作成にかかる費用を計上している。 これらを有効に活用することで、さらなる研究の進展を目指す。
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