研究課題/領域番号 |
24700775
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
幸 篤武 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 助教 (00623224)
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キーワード | アンドロゲン受容体遺伝子 / 四肢筋量 / 一般住民 |
研究概要 |
平成25年度は血中テストステロン濃度とテストステロンの受容体であるアンドロゲン受容体遺伝子(AR)との交互作用が四肢筋量へ及ぼす影響を解明することを目的とし、以下の解析を実施した。 「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した40歳から79歳までの男性461名を対象とした。四肢筋量は、DXAにて測定し、身長の2乗で除した骨格筋指数(SMI)を指標とした。早朝採血にて得た血液から、総テストステロン(TT)、性ホルモン結合グロブリン、アルブミン濃度を測定した。これらを基に算定型遊離テストステロン(cFT)濃度を算出した。血中リンパ球よりDNAを抽出し、PCRにて増幅の後、DNA シーケンサーによりAR-CAGリピート数(rs4045402)を測定した。CAGリピート数23回未満をShort(S)アレル、23回以上をLong(L)アレルとして分類し、男性はS群およびL群の2群に分けた。従属変数にSMI、独立変数にcFT、CAGリピート群(S群, L群)、およびcFT×CAGリピート群の交互作用項を投入した一般線形モデルによる解析の結果、男性ではCAGリピートとcFTの有意な交互作用は、cFTにおいて認められた(p<0.01)。SMIを目的変数とし、cFT濃度を基にCAGリピート群間の傾きを比較したところ、L群に有意な正の傾きが認められた(p<0.01)。一方、S群では傾きは有意ではなかった。本解析の結果、遊離テストステロンの低値と関連したサルコペニア発症の危険度は、CAGリピート数が少ない群と比較して多い群で、高い可能性が推察される。これらはテストステロンを指標としたサルコペニアの発症予測の精度向上に貢献するものであり、我が国におけるサルコペニアの予防・健診体制を構築する上で重要な知見になると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、性ホルモン代謝に関連する遺伝的素因がアンドロポーズとサルコペニアの関連に及ぼす影響を検討すること、また、アンドロポーズと筋力及びADL低下を指標とするサルコペニアとの関連についても検討を行うことを計画していた。 平成25年度の成果として、血中男性ホルモンレベルとアンドロゲン受容体遺伝子多型との相互作用が四肢筋量へ及ぼす影響を解析し、発表した(第68回日本体力医学会大会,2013)。これらの成果は原著論文として現在投稿中である。また、筋力及びADL低下を指標とするサルコペニアとアンドロポーズとの関連について、日本人を対象とした先行研究に基づく筋力及びADL低下のカットオフ値を用いた解析に加え、2014年1月に発表されたサルコペニアのアジアンコンセンサスにて示された筋力及びADL低下のカットオフ値を用いた解析を新たに行い、両者の比較検討を進めている。 このほかにNILS-LSA参加者のデータを用い、筋量、筋力、歩行速度から判定されたサルコペニアの各ステージにおける有病者数の推計や、ステージ間で日常生活能力得点の比較を行い、その結果を医学情報雑誌にて報告した(医学のあゆみ,Vol.248,649-654,2014)。 さらにNILS-LSA参加者の、サルコペニアの病期と血中男性ホルモンレベルとの相互作用が中高齢者のADLに与える影響を明らかにするための縦断解析を実施し、次年度以降の研究の遂行に必要な知見を得ることができた。 当該年度において得られた成果は、本研究の目的を達成する上で重要な知見になると考えられる。また今後の研究遂行に必要な予備知見を得ることができたことで、次年度においても研究が順調に進展するものと考えられる。以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、アンドロポーズと筋力及びADL低下を指標とするサルコペニアとの関連について検討する。また日常身体活動が、アンドロポーズと関連するサルコペニアの予防に有効であるかについても検討を行い、全ての研究成果についてとりまとめを行う。 【解析1】ベースライン時の総及び遊離テストステロン、DHEA-S、性ホルモン結合蛋白の血中濃度の多寡が、その後の握力、上体起こし、膝伸展筋力、膝伸展パワー、歩行能力(歩幅、速度)等の変化及ぼす影響について、アンドロゲン受容体遺伝子や他の遺伝子多型の相互作用の影響を考慮した縦断的な解析を実施し、その関連性を解明する。 【解析2】歩数、余暇・仕事身体活動実施状況、等を指標とする身体活動が、その後の筋量、筋力、ADLへ与える影響について縦断解析を行い、サルコペニアを予防し得る身体活動様式(種目、強度)や、その実施頻度及び実施量、等について明らかにする。 本研究の一連の解析の結果を基に、サルコペニア発症に関連する男性ホルモン濃度の提示を、遺伝子型ごとに行う。また、アンドロポーズとサルコペニアとの関連を断ち切ることが可能な日常身体活動量の提示を行う。 個人の遺伝子型に基づくサルコペニアリスクの提示は、オーダーメイド型のヘルスケアの開発に繋がるなど、我が国のサルコペニア予防の基礎的な位置づけになると考える。また、日常的な身体活動によるサルコペニア予防へと繋がる知見が得られれば、医学的介入に頼らないサルコペニア予防を図ることが可能となり、これは医療費の削減のみならず、高齢期の個人のQOL向上にも繋がると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度中に高知大学への異動が生じ、人件費・謝金の使用計画を中心に見直す必要があったため。 平成26年度は研究費使用内訳の予定として、物品費は、データの作成やとりまとめに必要なコピー用紙やトナー、データを保存するための電子記録媒体(HDD、BD-R)等の消耗品、またデータ解析や成果発表に必要なソフトウエアの購入が中心となる。旅費は研究に必要な解析の実施及び研究打ち合わせのための旅費の他、本研究の成果を公表するための学会参加にかかる旅費が必要となる。また、論文作成のための費用についても計上している。 これらを有効に活用することで、さらなる研究の進展を目指す。
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