研究課題/領域番号 |
24700795
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
渡辺 麻衣子 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 室長 (00432013)
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キーワード | 住環境汚染真菌 / 大震災 / アレルギー / マイコトキシン産生 / 感染 |
研究概要 |
昨年度までに、宮城県石巻市内の津波による浸水被害を受けた一般家屋(持ち家と賃貸住宅を含む)延べ23件からエアサンプラーを用いた空気浮遊真菌のサンプリングを行い、多数の菌株を分離した。今年度はこの菌株の同定および空気浮遊真菌生菌数の解析を行った。その結果、津波浸水世帯では、いずれの住宅タイプにおいても真菌汚染が進行している傾向にあることが示された。特に賃貸住宅では、非常に高い真菌汚染レベルにある住宅が多かったことが確認された。津波浸水家屋の持ち家と賃貸住宅では、壁・床の断熱加工等建築条件、建物所有者の浸水被害後の建物への対応などが異なると考えられ、この違いによって生じたものと推察された。さらに、分離株の同定を行った結果、アレルギー性やマイコトキシン産生性、感染性が報告されるAspergillus属菌が比較的多く検出された。以上のことから、津波浸水被害を受けた一般家屋、特に賃貸住宅では、真菌による室内汚染レベルが高まっており、健康危害リスクも上昇している可能性が示唆された。以上の結果をまとめて学会発表を行った。 また、分離株同定の結果、検出頻度が高かった真菌種から危害性の高い菌種を選択し、分離株のマイコトキシン産生性およびアレルギー性を評価するための実験を行った。吸入摂取による発癌性を有するAspergillus versicolor産生性のステリグマトシスチンのハウスダスト汚染検出のためLC-MS/MS系の検討を行い、アフラトキシン検出用アフィニティーカラムを使用した検出が可能であることを確認した。また、A. versicolorアレルゲン遺伝子Asp-v-13のアミノ酸配列を多菌株について決定し、配列の比較解析を行ったところ、新たなalleleが複数発見され、エピトープの欠失および新規エピトープの出現が予想され、同一菌種内でもアレルゲン性の程度に違いがある可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
津波浸水世帯での室内空気浮遊真菌調査を行い、空気1m3あたりの真菌生菌数の解析および検出真菌株の同定を行った。比較対象として、同地域の仮設住宅での室内真菌叢データを用い、室内汚染真菌の危害性を質的・量的に評価したところ、津波浸水被害を受けた一般家屋、特に賃貸住宅では、真菌による室内汚染レベルが高まっており、それにともなった健康危害リスクも上昇している可能性を明らかにした。 また、分離株の同定の結果検出頻度が高い真菌種が明らかとなり、今後の危害性評価のターゲットとするべき菌種を定めることができた。H25年度には、実際の分離株を用いて、ステリグマトシスチンによるハウスダスト汚染実態、およびA. versicolorにおけるアレルゲン性の検討を開始した。具体的には、イムノアフィニティーカラムを用いたLC-MS/MSによるステリグマトシスチン検出系の検討を行い、高感度検出が可能であることを確認した。また、複数のA. versicolor分離株を用いてAsp-v-13のアミノ酸配列を決定し比較解析を行い、本遺伝子では既存のalleleの他に10の新たなalleleを発見し、同一菌種内でもアレルゲン性の程度に違いがある可能性があることを明らかにした。 今年度の実験では、Asp-v-13の配列多様性が当初の予想よりも非常に大きかったためアミノ酸配列決定の実験手技が難航した。また、ハウスダストおよびA. versicolor分離株の培養液からのステリグマトシスチン検出実験で、ターゲットが微量であり、ハウスダストには夾雑物が多いという特徴から、ステリグマトシスチンの検出が難しく、検出系から検討する必要が生じた。年度初頭の実験計画では、マウス感染実験も開始する予定であったが、以上の理由から実験計画が遅れたため、H26年度に行う予定とした。その他の点では、ほぼ予定通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
同定済みの浸水世帯由来真菌株を用いて、吸入暴露による危害性の有無を検証する。これまでの危害性報告の有無および本研究における検出頻度の観点から、検証対象とする菌種は以下のとおりとする。アレルゲン性:A. fumigatus、A. versicolor、A. alternaria、マイコトキシン産生性: A. versicolor (産生マイコトキシンはステリグマトシスチン)、感染性:A. niger。 アレルゲン性の評価については、A. versicolorではAsp-v-13を、A. alternataではアレルゲンデータベースの登録遺伝子の中から適当な遺伝子を選択し、それぞれのアミノ酸配列を決定する。その後、これらの配列の比較解析を行い、エピトープ解析を行う。続いて各エピトープタイプの菌株について、リアルタイムPCRによるアレルゲン遺伝子発現程度を解析する。これらの実験結果を総合し、各株のアレルゲン性の強弱を推定する。エピトープ解析では、都産技研・小沼氏の協力を得る。マイコトキシン産生性の評価については、LC-MS/MSにて、H25年度に浸水世帯で採取したハウスダストおよびA. versicolor分離株の培養液中のステリグマトシスチンを定量して、ハウスダストのステリグマトシスチン汚染度および菌株の産生性の定量的評価を行う。この際、国立衛研・吉成博士の協力を得る。感染性の評価については、マウスへの真菌胞子経気道投与後、病理切片を作製し、病理学的に感染の有無を判定する。病理学的診断に際しては、岩手大・鎌田教授の協力を得る。 真菌叢の解析結果と、感染性・アレルゲン性・マイコトキシン産生性に基づく危害性評価実験の結果等を統合して、被災者住環境を汚染する真菌の健康リスクについて、総合的に評価する。また、真菌叢の変遷の要因を生態学的に考察し、危害性真菌の制御方法を考案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度内に使用する、実験に係る消耗品購入のための物品費が不足する可能性があったため、前倒し請求を行ったが、動物実験はH26年度に行うことに計画を変更したため、残額が生じた。残額はH26年度に、計画通り動物実験に使用する予定である。 H26年度は、ラボワークが研究の中心となる。動物実験および微量分析実験では、動物の購入および維持、病理切片作製の外部発注に関しては、本研究でのみ突発的に行う実験であるため初期投資的な費用がかかる。アレルゲン遺伝子のアミノ酸シークエンスおよびリアルタイムPCR等の基本的な分子生物学的実験に関して数多くこなす必要があるため、実験補助者を雇用する必要がある。また、今年度は研究実施期間の最終年度であるため、学会発表、誌上発表等研究成果の発表を行うため、研究期間を通じて、学会発表および誌上発表等を行い、得られた研究成果について積極的に公表する予定であるため、旅費や英文校正費、投稿費がかかると予想される。したがって、物品費、旅費、人件費・謝金、その他の項目ともに等しく研究費を使用する予定である。
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