食肉の消費ニーズは先進国を中心に量より質に移行しつつあり、良好な食味を得るために、品種改良、餌料組成、飼育方法などさまざまな検討がなされている。特に脂肪の質は重要視されており、品種改良技術や餌料に植物性油脂やn-3系脂肪酸を添加する方法が試みられている。これまでに豚肉を約-1℃の未凍結温度域で熟成(氷温熟成)すると脂肪融点が低下することが報告されている。これまで熟成による脂肪の質の変化に関する知見はほとんど見当たらない。そこで本研究では、屠殺直後の豚肉をチルド熟成(4 ± 0.5℃)もしくは氷温熟成(-0.5 ± 0.5℃)で処理し、熟成期間毎の脂質の性状を評価した。 豚ロース皮下脂肪部の脂質融点は、チルド熟成処理と比較し、氷温熟成処理により低下が確認された。脂肪融点の低下は、熟成1日からみられ、熟成14日でも維持されており、熟成7日にはチルド熟成処理と比較し約4℃の差がみられた。一方、チルド熟成肉では、熟成による脂肪融点の変化は確認されなかった。脂肪融点低下の原因を解明するために、遊離脂肪酸量、総脂質脂肪酸組成について測定をおこなったが、熟成温度の違いによる変化は確認できなかった。また、ラードをチルドおよび氷温熟成処理し脂肪融点におよぼす影響を評価したが、脂肪融点の変化は見られなかった。このことから、氷温熟成処理による豚肉皮下脂肪部の脂肪融点の低下は、油脂を熟成するだけでは効果がみられず、豚肉として熟成する必要があることが示唆された。
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