研究課題
腫瘍幹細胞は自己複製能および未分化性に由来する多分化能を持ち、二次腫瘍を形成することのできる細胞として定義されている。悪性腫瘍の治療において、初回治療後に再発を来すことがしばしば課題となるが、この薬剤や放射線への治療抵抗性を腫瘍幹細胞の性質により説明することが可能と考えられている。腫瘍幹細胞が存在すると考えられている腫瘍のうち、膠芽腫は脳腫瘍のうちで最も悪性度が高い腫瘍の一つであり、特に再発の制御が困難なことで知られている。近年テモゾロミドによりようやく生存期間の改善がみられるようになったものの、依然難題として更なる治療法の開発が望まれている。一方、ポリフェノール化合物であるレスベラトロール(RSV)はこれまでに種々の悪性腫瘍に対して抗腫瘍効果が示されただけでなく、サーチュイン(SIRT)遺伝子にも作用すると言われており、SIRTタンパク群も抗腫瘍効果に関与することが示唆されている。更に、RSVが多くの薬剤の通過を妨げる血液脳関門を通過することは、脳腫瘍研究において特筆すべき性質である。本研究では、このRSVを用いて、膠芽腫の細胞株であるU87細胞に対する抗腫瘍効果を検討した。その結果、RSVはU87細胞の細胞死機構を誘導して細胞数や増殖能を抑えたばかりでなく、腫瘍幹細胞に発現する幹細胞関連タンパクの発現を抑えて細胞を分化傾向に導く作用を示し、腫瘍幹細胞の治療感受性を改善する可能性を示した。RSVは食品由来物質であり、臨床試験においても重篤な副作用は報告されていない。本研究の成果等から、RSVには、一般的な抗腫瘍効果ばかりでなく、再発および治療抵抗性の根源と考えられる腫瘍幹細胞成分に対しても有効であることが示唆される。この成果は悪性脳腫瘍治療において、ポリフェノールという食品由来物質を用いた、身体への負担のより少ない、かつ治療効果を高める補助療法の可能性を呈示した。
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Stem Cells Transl Med.
巻: 3 ページ: 42-53
10.5966/sctm.2013-0020
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