研究課題/領域番号 |
24700835
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研究機関 | 名寄市立大学 |
研究代表者 |
田邊 宏基 名寄市立大学, 保健福祉学部, 助教 (60573920)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 栄養学 / 動物 / 発酵 / 水素ガス |
研究概要 |
本研究の目的は大腸発酵由来水素の一部が全身の組織へ移動することを明らかにするとともに、生体内へ広く供給された水素が全身の酸化ストレス軽減に寄与することを明らかにすることである。 平成24年度の研究目的は大腸発酵水素の一部が全身に広く供給されることを明らかにすることであった。この目的の達成のために、大腸発酵由来水素の生体内分布を網羅的に解明し、門脈を介した経路のみでは全ての組織に水素を供給しえないことを明示した。具体的には、5%セルロース添加飼料または難消化性糖質のハイアミロースコーンスターチ (HAS) を20%添加した飼料をラットに与え、それぞれをC群、HAS群とし、試験飼育開始14日後まで飼育した。飼育最終日には (呼気+放屁) 水素排出量を測定後、麻酔下で腹腔へ3 mLの生理食塩水を投与した。30秒後に1 mLの生理食塩水を回収し、腹腔内の水素量を推測した。その後、開腹を行い、門脈血、末梢血を採取した。続いて肝臓、脾臓、腎臓、腎周囲脂肪、精巣、精巣上体周囲脂肪、肺、脳を摘出した。全てのサンプルから含有水素量を測定した。2群間に有意な差が認められたのは、(呼気+放屁) 水素排出量、腹腔内投与生理食塩水中水素濃度、門脈水素濃度、腎周囲脂肪水素量、精巣上体周囲脂肪水素量であった。HAS群の肝臓水素量はC群に比べ増加傾向が認められた。これまでに我々が見出した門脈を経由する水素移動経路に関係するのは門脈、肝臓、肺である。一方、腎周囲脂肪、精巣上体周囲脂肪では門脈血中水素濃度よりも濃い状態で水素が含有されていることを新たに発見した。これらの脂肪組織は門脈を経由する移動経路では水素が到達しない部位である。さらに、HAS群の腹腔内投与生理食塩水中水素濃度はC群に比べ約10倍高かった。以上の結果から、大腸発酵水素は臓器を貫通し、腹腔内を経由して広く全身に到達する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究目的は大腸発酵水素の一部が全身に広く供給されることを明らかにすることであった。この目的の達成のために、対照食または消化性糖質のハイアミロースコーンスターチ (HAS) を20%添加した飼料をラットに与え、それぞれをC群、HAS群とし、試験飼育開始14日後まで飼育した。排出水素量、腹腔内水素量、門脈および末梢血水素濃度、脳、肺、肝臓、脾臓、腎臓、および内臓脂肪の水素濃度を測定した。末梢血では殆ど水素が検出されないにもかかわらず、内臓脂肪組織には多くの水素が蓄積されていた。また、腹腔内に投与、回収した生理食塩水には門脈血を超える多量の水素が含まれており、大腸発酵水素は臓器を貫通し、腹腔内を経由して広く全身に到達する可能性が示唆された。また、脂肪組織は他の組織に比べ水素を蓄積しやすいことが示唆された。以上の結果から、発酵水素の一部が全身に広く供給されることを明らかにするという平成24年度の研究目的は達成された。水素の大腸壁通過能に関しては平成25年度の「腹腔を介する経路の貢献度の解明」と同時に行う予定である。 現在は平成25年度の計画に示した酸化ストレスモデルラットに対する難消化性糖質の効果を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究目的は昨年度に明らかにした腹腔を介する水素移動経路の重要性を指摘し、その上で腹腔を介する経路によって全身に供給された水素が全身の酸化ストレスを軽減することを明らかにすることである。 目的のとおり、今後は全身の酸化ストレスに対する大腸発酵水素の効果を検討していく。研究実施計画では5%セルロースまたは20% HAS飼料で14日間飼育したラットに0.2 mL/kgの四塩化炭素を経口投与することで、肝臓をはじめとした全身の酸化障害を誘発させ、大腸発酵水素の酸化ストレスに対する効果を検討する。解剖で得られた肝臓、脾臓、腎臓、内臓脂肪組織のグルタチオン濃度、過酸化脂質濃度、SOD活性を測定し、総合的な抗酸化能力を判定する。 続いて腹腔を介する水素移動経路と門脈を介する水素移動経路の水素移動寄与率を検討する。本試験には結腸結紮ループおよびユッシングチャンバーを用い、門脈へ流入する水素と結腸壁を通過する水素の割合を算出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定と比べ大きな変更は無い。平成24年度の繰越金は物品費に充てる予定である。従って、物品費962,936円、旅費100,000円、人件費・謝金80,000円、その他100,000円である。物品費は実験試薬および機器の購入に用いる。旅費は学会参加のための移動、宿泊費に用いる。人件費・謝金は投稿論文の校閲に用いる。その他は論文の投稿料金に用いる。
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