研究課題/領域番号 |
24700846
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
斉藤 麻希 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (40365185)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | n-3系多価不飽和脂肪酸 / 肺高血圧症 / 脂質メディエーター / 血管平滑筋 / メカニカルストレス |
研究概要 |
本研究の目的は n-3 系多価不飽和脂肪酸 (n-3 PUFA) が肺高血圧症病態時に観察される血管収縮能異常、肺組織で観察される慢性炎症、さらには生命予後の改善に寄与するか否かを明らかにし、既存の肺高血圧症治療薬と併用することによりその作用を補助しうるか示すことである。平成24年度では、n-3 PUFA 長期単独投与の効果を調べる目的で、①肺高血圧症ラットの生命予後および ②肺動脈収縮機能異常を改善しうるかについて、予備的な検討を行った。 ①n-3 PUFA 長期投与が肺高血圧症ラット生命予後に与える効果:ラットにモノクロタリン (MCT) を単回皮下投与し、肺高血圧症を誘導した。なお、このモデルでは、MCT投与後約 3 週で肺高血圧症が成立する。MCT 投与翌日から n-3 PUFA を含む魚油(1 mL/日, Sigma)の経口投与を開始した。対照には、n-6および n-9 PUFAのソースであるコーン油(1 mL/日, 和光純薬)およびオリーブ油(1 mL/日)を用いた(各群 n=2~3)。コーン油投与群に比し、魚油およびオリーブ油投与群の生存日数は長い傾向にあったが、顕著な延長ではなかった。 ②n-3 PUFA 長期投与が肺動脈収縮機能異常に与える効果: ①と同様に、MCT 投与翌日から魚油またはコーン油投与を開始した。3~4週間飼養・観察後、肺動脈を摘出し、その収縮能についてマグヌス法で検討した。肺高血圧病態下の肺動脈平滑筋では、K+ チャネルの機能が低下していることが報告されているが、魚油投与群では、K+ による脱分極刺激に対する収縮応答に改善傾向が観察された。一方、伸展刺激に誘発される異常な律動性収縮の発現頻度に関しては、魚油およびコーン油投与群間に差は認められなかった。 以上の結果から、魚油長期投与は、血管平滑筋に対して機能保護効果を示す可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画長所に記載した平成24年度研究計画の概要は、「PAH 肺動脈収縮機能異常に対する n-3 PUFA の効果に関する検討」、「肺動脈平滑筋細胞における伸展刺激誘発増殖因子受容体発現増強に対する n-3 PUFA の効果に関する検討」である。 「PAH 肺動脈収縮機能異常に対する n-3 PUFA の効果に関する検討」に関しては、上記「研究実績の概要」文中①に相当する。実験各群の例数が少ないので、実験例数を増やす必要はあるが、概ね順調に進んでいると思われる。一方、培養摘出肺動脈組織および培養肺動脈平滑筋細胞を用いた検討については着手に至らなかったが、平成25年度検討予定であるまるごと個体を用いた治療実験の予備検討を前倒しで行っている(上記「研究実績の概要」文中②に相当)。また、平成25年度に予定している動脈血中酸素飽和度測定に先駆け、市販の歩数計、小動物用ホイール、リードスイッチを応用した自作トレッドミルの作製も済ませた。これを用い、肺高血圧症患者に対して行われる機能評価試験である「6分間歩行テスト」に相当する運動負荷をラットに与え、その後に動脈血中酸素飽和度および心拍数を測定する予定である。 以上の成果について勘案して、計画は概ね順調に進捗していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的に研究計画調書に記載した研究計画に従い研究を遂行する。まずは、病態モデルラットを用いた治療実験を中心に行う予定である。第一に、高用量では延命効果を示すが、低用量では有意な効果を示さなかった分泌型ホスホリパーゼ A2 阻害薬インドキサムと、魚油併用効果について検討する。第二に、現在肺高血圧症治療薬として重要な位置付けにあるボセンタンと魚油の併用効果についても調べ、魚油同時投与がボセンタンの肺高血圧症治療効果を補助し、ボセンタンの減量を可能にすることで肝機能障害を軽減する可能性があるか検討する。 続いて、肺高血圧症関連組織における炎症に対する魚油の効果について調べる。上記で魚油および肺高血圧症治療薬を処置したラットから、肺・心臓・腎臓・大動脈・肝臓・末梢血を採取し、ウェスタンブロットおよび RT-PCR により炎症性サイトカインの増減について検討する。 また、魚油に含まれるエイコサペンタエン酸 (EPA)、ドコサヘキサエン酸 (DHA) は、シクロオキシゲナーゼ (COX) の基質であり、アラキドン酸と競合することで炎症性プロスタグランジン類の生成を抑制することが知られている。この数年のうちに、低用量アスピリンによりアセチル化を受けた COX-2 が EPA や DHA を代謝することにより、炎症収束物質であるレゾルビン E1 やレゾルビン D1 を生成するとの報告も蓄積されてきている。従って、肺高血圧症治療薬と共に低用量アスピリン並びに魚油を併用した場合の肺高血圧症治療効果についても同様に検討する。 細胞死関連実験、および平成24年度実施予定であったヒト肺動脈平滑筋細胞を用いた実験は、上記治療実験が完了し次第、逐次実施する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費については、平成24年度に購入が完了しているため、平成25年度の利用予定はない。 消耗品費については以下の通り予定している。 ラット購入及び飼育維持費(250千円);経口投与用脂肪酸類(50千円);リアルタイム PCR 試薬・抗体・電気泳動関連試薬(300千円);ディスポーザブルプラスチック器具等(100千円);浸透圧ミニポンプ(60千円)。 申請者は平成25年度より日本薬学会 薬理系薬学部会 若手世話人を拝命することになり、熊本で開催予定の日本薬学会第134年会において本研究成果の発表を求められる可能性が濃厚となった。従って、日本薬学会年会での成果発表に係る国内旅費として150千円を計上する。
|