研究課題/領域番号 |
24700850
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研究機関 | 仁愛大学 |
研究代表者 |
池田 涼子 仁愛大学, 人間生活学部, 准教授 (80352805)
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キーワード | 鉄欠乏 / 耐糖能異常 / 酸化ストレス / 生体内相互作用 / βカロテン |
研究概要 |
糖質の摂取による食後の一時的な血糖値の上昇とともに、抗酸化ビタミンである血中ビタミンE濃度の低下やインスリン抵抗性に関与するアディポサイトカインであるTNF-αのmRNAが増加するとの報告があり、血糖値の上昇と酸化ストレスとの密接な関係が指摘されている。一方で、鉄欠乏では生体内脂質過酸化が亢進することが知られており、鉄の栄養状態が糖尿病の発症や病態進行に関与する可能性が示唆されている。筆者は過去の学術研究助成基金採択課題(課題番号21700777)において食餌性鉄欠乏ラットの血糖値上昇と耐糖能に関与するアディポサイトカイン群の血中濃度の変動を観察しており、生体内脂質過酸化の亢進により誘導される炎症性サイトカイン(TNF-α)の増加が、ラットの血糖値上昇およびインスリン抵抗性に関与することが推察された。 これより、本研究は鉄欠乏により誘導される耐糖能低下の機序を解明することを目的として、高い抗酸化性を有し食品中に広く分布するβ-カロテンによる鉄欠乏ラットの生体内脂質過酸化の抑制が耐糖能に及ぼす影響について検討した。 II型糖尿病モデルラットとして一般的なGKラット(系統名GK/Jcl)24匹を正常食群、鉄欠乏食群、正常食・β-カロテン添加食群、鉄欠乏食・β-カロテン添加食群の4群に分け、35日間の飼育観察を行った。血中グルコース濃度は鉄欠乏食投与により上昇したが、β-カロテンの経口摂取により正常食群と同等の値を示した。インスリン感受性因子である血中アディポネクチン濃度は鉄欠乏により顕著に低下したが、β-カロテンの経口摂取により、正常食群と同等の値を示した。以上より、β-カロテンがインスリン感受性サイトカインの分泌に影響を及ぼし、耐糖能を改善する可能性が示唆された。また、血中TNF-α濃度は各群間に顕著な差は見られなかったものの、鉄欠乏食・β-カロテン添加食群が最も高値を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度、研究設備の都合により実験の実施が遅れ、全体の計画に遅延が生じている。実験開始以降の進捗状況は概ね順調であるが、本課題の遂行に充てるエフォートには限界があり、当初の計画通りに研究を進展させることは困難である。 限られた時間内で少しでも多くの成果を上げられるよう引き続き努力する。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」で述べたとおり、β-カロテンの経口摂取による鉄欠乏ラットの血中アディポネクチン濃度の増加が血中グルコース濃度の正常化に関与し、耐糖能を改善する可能性が示唆されたが、一方でこれまでの実験で鉄欠乏により高値を示していた血中TNF-α濃度は全群間で顕著な差が認められなかった。また、概要では触れなかったものの同様に過去の研究で鉄欠乏による顕著な低下を示した血中レプチン濃度、血中RBP4濃度も低下傾向を示したものの、統計学的な有意差を認めるに至らなかった。これより、今後の計画を一部変更して今年度の追実験を実施し、実験結果の再現性を確認することを優先したい。 引き続きGKラットを4群に分け、それぞれ正常食、鉄欠乏食、正常食・β-カロテン添加食、鉄欠乏食・β-カロテン添加食を与え飼育観察を行う。飼料はAIN-93組成に基づき調整し、鉄欠乏食群は飼料配合中のミネラル給原より鉄を除去したものを使用する。βカロテン添加食群は、ビタミン給原よりビタミンAを除去し、正常食飼料中のレチノール当量に相当するβ-カロテンを添加した飼料を与える。飼育期間は、より明確な実験結果を得ることを期待して42日間(6週間)とする。測定項目はH25年度の実験計画に準じるが、より詳細な機構解明を目的としてインスリン抵抗性の指標となるHOMA-R、血中インスリンc-ペプチド濃度、内臓脂肪量などの試験を追加することを検討している。 試験終了後は速やかに飼料分析を行い、以降は研究環境の条件に応じて当初の実験計画に基づき「鉄の欠乏状態がインスリン抵抗性に及ぼす影響」について、飼料中鉄濃度を段階的に制限し、生体内鉄濃度と慢性的な軽度の鉄欠乏にともなうビタミンA代謝の変動が耐糖能に及ぼす影響について検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
三カ年計画の研究のうち、一年目に研究設備の諸問題から実験の開始が遅れ、現在に至るまで研究の遅延が完全に解消されていないことから、使用金額が当初の予定を下回っている。研究活動に必要な試薬、機器の購入等に関しては適正に処理されている。 今後、計画している実験においてH26年度交付額も含めて順当に予算を消化できる見込みである。具体的には被験動物および飼料、分析試薬の購入など主に消耗品の購入に使用する。また、研究の進捗を是正するため適宜、実験助手を導入することを検討しており、その謝礼としても使用する予定がある。
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