研究課題/領域番号 |
24700854
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研究機関 | 長崎国際大学 |
研究代表者 |
野嶽 勇一 長崎国際大学, 薬学部, 講師 (30332282)
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キーワード | 乳酸菌発酵物 / 豆乳 / 脂質代謝 |
研究概要 |
ヒト常在乳酸菌による複合培養から調製した豆乳の乳酸菌発酵物PS-B1が示す有用作用に関する研究の中で、PS-B1の摂取が脂質代謝の改善に対して有効であることを明らかにしてきた。そこで平成25年度は、高スクロース含有飼料で飼育したマウスを対象としたPS-B1の摂取実験を行い、生化学的な観点から肥満に対するPS-B1の影響を検討した。 4週齢の雄性C57BL/6Jマウスに高スクロース飼料を12週間与えた高スクロース飼料摂取群では、通常飼料摂取群よりも体重増加率が約10%上昇していたことが明らかとなった。飼育開始8週間後に高スクロース飼料中にPS-B1を混合した場合、PS-B1含有量に比例して体重増加の抑制が見られるようになった。この体重変化と同様に、PS-B1の摂取によって腸管脂肪、精巣上体脂肪および肝重量の増加も抑制され、PS-B1を5%含有した飼料を摂取した群では、ほぼ通常飼料群と同等の測定値を示した。 上記の動物実験における各群のマウスから肝臓を摘出し、その肝臓を用いてmRNAを抽出した。このmRNAを対象として定量的RT-PCR法による発現試験を行った結果、高スクロース飼料の摂取によってFAS、ACC1、ACC2、L-PK、およびSREBP-1cの発現がmRNAレベルで1.8~4倍程度亢進したことが示されたが、PS-B1によりこれらの発現が抑制されたことが明らかとなった。またFASやACCの主要な転写因子であるChREBPにおいては、高グルコース摂取による発現の亢進は認められず、PS-B1摂取によるわずかな発現抑制が見出されたのみであった。今回の結果より、PS-B1が解糖・脂質合成系代謝酵素遺伝子の発現抑制を介して肥満を抑制することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回実施した高スクロース飼料を用いたマウスのPS-B1摂取実験を介して、PS-B1が示す脂質代謝改善作用の特性に対する理解が徐々に深まってきたと考えている。PS-B1が示す本生理活性が発現するに至る作用機序については未だ十分な解明には至っていないが、PS-B1の摂取が一部の糖質・脂質代謝関連因子の制御に深く関与することが遺伝子レベルで示唆されたのは、大変重要な知見であると評価した。この結果を基盤として、DNAアレイ解析法による網羅的遺伝子解析実験をすでに開始している。この実験を介してもたらされる結果により、PS-B1が示す脂質代謝改善作用に関する発現機序の全貌がより明確にされると期待している。 なお、研究立案当初から予想していたように、本生理作用の本質となる生理活性物質の精製・同定については鋭意継続中であるが、未だ十分な研究成果を得るに至っていない。研究の継続により、本課題の達成を図る。
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今後の研究の推進方策 |
PS-B1が示す脂質代謝改善作用に関する作用機序については、ターゲットとなる因子に見当を付けることができたが、十分な研究成果が得られたとは言えない。そこで、PS-B1摂取実験の終了時に回収したマウスの肝臓を基に、DNAアレイ解析法による網羅的遺伝子解析実験をすでに開始している。本解析によってPS-B1の影響を遺伝子レベルで把握できるようになることから、作用機序について丁寧かつ慎重に解明を図る。PS-B1の摂取から導かれる肥満の抑制に関する作用機序が解明された場合、本生理活性の特性の理解が大きく促進されることが期待される。 一方、PS-B1が示す本生理活性の本質となる生理活性物質の探索は相当に困難な課題であるが、これまでに蓄積した知見を基に、継続して精製・同定実験に精力的に取り組む。生理活性物質の精製・同定が達成された場合、その物質を利用した各種生化学的、分子生物学的、および薬理学的解析を実施し、PS-B1の脂質代謝改善作用について多面的かつ包括的な理解を図る。
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