研究課題/領域番号 |
24700889
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
奥本 素子 総合研究大学院大学, 学融合推進センター, 助教 (10571838)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 被災文化財 / 博物館学 / 教育工学 / アーカイブ / デジタルミュージアム |
研究概要 |
本研究は、被災文化財修復記録の幅広い共有と活用を目的に、被災文化財修復記録の電子化と被災文化財に関する、市民の語り、専門家の視点、収蔵館の現状報告などの多様なデータを同期させた多次元データベースの構築を目指している。 東日本大震災で、東北沿岸地域の文化財の多くは破損、消失した。現在、東北学院大学博物館では、そのような被災文化財を洗浄・修復する作業に従事している。研究者が携わる大学博物館では、被災文化財の洗浄・修復を単なる一過性の作業として終えるのではなく、その洗浄・修復の過程を記録し、その後の修復研究への活用、学芸員過程における博物館資料保存教育への活用、被災文化財を通した地域コミュニティの歴史の記録などに発展させたいと考えている。本研究では、東北学院大学博物館の文化財レスキュー事業の過程の中で行われていた記録をデジタル化し、各記録を専門家、非専門家向けの活用方法を考えていく。東北学院大学では、宮城県鮎川収蔵庫に収蔵されていた民俗資料をレスキューし、修復している。 本研究では、これまで東北学院大学で記録されていた紙媒体の日誌(文化財レスキュー活動の記録)、カルテ(被災文化財資料の修復記録)、聞き取りシート(文化財レスキュー点で実施した来館者への聞き取り記録)をデジタル化した。本研究では、日誌、カルテ情報を専門家向けに、聞き取りシートを非専門家向けに活用することとする。日誌、カルテ情報は、被災文化財を修復する際に、どのような記録がふさわしいのかを検証するために活用する。聞き取りシート情報は、被災文化財を通して、鮎川地区の民俗、歴史、そして震災を学ぶために活用する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は平成24年度に下記のような研究を実施した。 カルテ情報、日誌情報、聞き取りシート情報のデジタル化:24年度は、これまで東北学院大学博物館が手書き、紙媒体で記録していたカルテ情報、日誌情報、聞き取りシート情報の全てをデジタル化した。 カタリイトサイトの構築:カタリイト・プロジェクトは、東北学院大学博物館が行った鮎川収蔵庫の民具資料のレスキュー活動の記録(日誌、カルテ、画像)をデジタル化し、一般的な博物館関係者(保存科学以外の博物館職員や学芸員課程を履修中の学生など)に対し被災資料修復情報を共有していくことを目的にしている。カタリイトサイトでは、日誌、カルテ、画像といった違うメディア、違う内容のコンテンツ間の意味の連続性を見出し、一連の情報として提示することを目的とする。平成24年度は、CMSで更新できるカタリイトサイトを構築した。 カルテデータベースの構築:カルテ情報をアクセスに入れ、データベースとして活用できるよう整えた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、非専門家、専門家向けに各データの活用方法を考える。 平成24年にデジタル化したデータを元に、実施する研究計画は以下の2点である。 <計画1:被災文化財修繕に関するレスキュー情報のアーカイブ化調査>震災被害にあった文化財を救済し、修復するという頃込みである文化財レスキューは阪神大震災から始まった。歴史も浅く、被災被害も状況によって多様であり、未だ体系的な知識や記録が確立していない。そのため、被災後文化財レスキューを行う際には、参考資料もないまま担当者は本事業に取り組まなければならない。今回、東北学院大学博物館は、レスキュー活動の記録を後世に残し、津波被害における文化財修復の経験をより多くの関係者に参照可能にしようと試みた。しかし、記録内容、そして記録方法についても、専攻事例が乏しいため、今回担当教員の判断で記録カテゴリーが作成された。本研究では、本事例を元に、レスキュー活動の記録内容についての検証を行う。具体的には、関係者に対するインタビューを行い、そこから質問紙を作成し、文化財に関わる関係者が被災時に求めている記録の要素と粒度について明らかにしていく。 <計画2:聞き書きを元にしたキュレーションバーチャルミュージアム教材の開発>被災した資料は全てデジタル画像とされ、本経験は広くバーチャル教材として一般に公開する予定である。その際、単なるデータベースにとどまらず、インタラクティブに学習者が学べる教材にしていくことにより、学習効果を高めていく。具体的には、自分で各資料やデータをキュレーションでき、自分なりの被災資料に対する意味付けができるような教材を開発する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、被災文化財関係者に対するインタビュー、アンケート調査、及び教材開発、成果の途中報告に研究費を使用する。具体的には下記のような計画を立て、研究費を支出する計画である。 インタビュー調査(旅費)20万円、教材開発 40万円、国際会議発表 70万円(2名)、雑費 10万円
|