本研究課題では、心理臨床場面や相談業務場面において,ネットワークを利用した援助活動を有効に行うための基礎研究を行うことを目的とした。1,2年次には、基礎的な研究として、疑似的に遠隔相談場面を現出させ、実際の来談者の感情表出や感情伝達といった認知的評価に基づいた検討を行った。また、カウンセラーとの信頼形成の検討を行った。これらの結果より、認知的な面においては、対面のカウンセリングと大きな差異のないことが示された。信頼形成に関しては、概ね相手との距離に関して対面コミュニケーションとの差異が明らかとなった。最終年度では、以下の二つの検討を行った。一つには、実際のカウンセリング時の行動の検討、具体的には相談内容の変化についての検討である。もう一つは遠隔カウンセリングの実際の臨床場面においての行動の検討を行うことであった。実際の遠隔カウンセリング場面での検討は、諸事情により行えなかったため、類似の環境として実際の小学校をテレビ会議システムでつなげ、そこでの子ども同士のやり取りおよび子どもと教師とのやり取りを臨床的な遠隔場面として取り上げ、代替的に検討した。検討の結果、遠隔カウンセリング場面の行動評価指標として、カウンセリング時の発話を時間及び内容で検討した結果、遠隔カウンセリングでは、「洞察」に関わる発話が、カウンセリングの比較的早い時間で現出し、また、発話量も多くないという結果が得られた。このことは、1,2年目の研究成果と合わせて考えると、遠隔カウンセリングという非日常性が対面等のカウンセリングと異なり、早めの自己省察につながると考えられる。小学校での臨床的な遠隔交流場面の分析では、初めのうちは実際のシステムを多く利用していたが、他者との心理的距離感の問題から、時間が経つにつれて利用頻度が少なくなるという結果が得られた。現実場面での遠隔交流場面についての検討が今後の課題といえる。
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