福島第一原子力発電所事故による放射線の影響について、市民がどのようなコミュニケーションをとっていたのか明らかにするために、福島県いわき市の住民が中心となって開設されたSNS上のコミュニケーションを分析した。分析には2011年中にSNS上に会員によって書かれた日記のログデータを用いて、テキストマイニングによる内容の分析、日記に対するコメントから会員間のコミュニケーション・ネットワークの分析を行った。その結果、多様な関心をもった市民がSNSを通じて相互に情報を交換していたこと、またその仲介役として市外の支援者が存在していたことが明らかになった。 その後、調査対象であったSNSが閉鎖されたこと、また他の団体への調査も困難であったことから、研究方法をインターネット調査を用いた放射線に対する市民意識の研究に変更した。この調査の目的は放射線の影響に対する不安がどのような要因の影響を受けているのかを明らかにすることであった。また、放射線に関する知識の測定法改善のための実験も行った。インターネット調査はインターネット調査会社の登録モニターを対象に2013年と2014年の2回行われた。2013年は予備調査として東京都在住のモニター320名を対象とし、2014年には福島県在住と東京都在住のモニターそれぞれ300人ずつ、計600人を対象とした調査を行い、地域間比較を行った。その結果、放射線の影響に対する不安の規定要因には福島県と東京都で共通性があるが、原子力発電の利用や脱原発デモに対する意識の規定要因には地域による違いがあることが分かった。 SNSのログデータの詳細な分析と、インターネット調査による市民の意識調査を併用することで、原発事故直後のSNSを通じたリスクコミュニケーションとその後の市民の放射線のリスクに関する意識を明らかにすることができた。
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