研究課題/領域番号 |
24700926
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 裕子 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 研究員 (60506088)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 加工痕 / 木質文化財 / 非接触形状測定 |
研究概要 |
平成24年度は、加工痕試料の作成、測定装置の見学とその性能評価、作成した試料の加工痕の測定と工具の刃先線形状を推定するための特徴量の抽出、加工痕のある古材収集の準備等を行った。研究の年限が短いので、刃物の種類をチョウナに絞って実験を進めることとした。チョウナは加工痕が最も大きくあらわれ、加工痕から工具の移動方向が推定しやすいという利点がある。また小屋裏部材などで丁寧な仕上げを要しない部分では多数認められる。 加工痕試料の作成では、刃先線形状の異なる4種類のチョウナを用い、専門技術者に加工していただいた。加工に使用した工具の刃先形状は樹脂で型取りした。 チョウナの加工痕は大きくかつ深いため、汎用の表面性状測定器でこれを測定することが困難であった。そこで、本実験で作成した加工痕と同等レベルの凹凸の非接触三次元測定が可能な装置(据置型)を所有している北海道林産試験場で装置の見学と加工痕の測定を行った。測定の結果、お借りした装置でチョウナ加工痕が十分に測定できることが分かった。同等の装置を自作することは経費の関係で難しいが、今後課題を継続する際には今回の見学と試測定のことを参考にする。 測定した加工痕の凹凸形状から、工具の進行方向と平行方向の凹凸に、刃先線形状を推定するための特徴が認められた。凹凸の波形は、チョウナの刃を木材に切り込む側の傾斜がより急峻、刃が離脱する側はより緩やかで、波形には変曲点が存在した。一刃分の加工痕についてこの変曲点を抽出することで、刃先線の形状が推定できると考えられた。これについては現在検討中である。 今回明らかにした特徴量が広く認められるものかどうかを確認するためにも、本研究期間に実際の古材に残された加工痕を測定することは一つの目標である。そこで、修理工事が行われている現場に出向き、廃棄する材料で年代の明らかなものを譲っていただくことを了承いただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、文化財建造物を含む木造古建築物の部材に残された加工痕を非接触で三次元的にトレースし、その凹凸形状から使用された工具の刃先線形状、可能であれば、工具の種類まで推定する手法を確立することである。当初の研究計画では、平成24年度は加工痕を非接触で三次元的に測定する方法を決定し、平成25年度は、測定した形状から特徴量を抽出し、解析する手法を検討するとした。ただし、これらは一部同時並行で行うこととした。 研究当初は様々な種類の工具を対象とすることを考えたが、研究期間が2年であるので、工具の種類をチョウナに絞り、その工具については確実に刃先線形状を推定できるような手法の確立を目指すこととした。 平成24年度に予定した実験等はおおむね終了したが、いくつか未消化の部分が残った。一つは学会等での成果発表であるが、これについては今夏に発表が決まっている他、平成25年度末にも予定している。もう一つはカメラ型の三次元形状測定装置による加工痕の測定である。これについてはここ数年、様々な安価な装置が市場に出始めているため、文化財に実績のある機器にそれらの安価なものも含め、価格帯、携帯性とデータの信頼性を考慮して候補を絞り、検討を進めている段階である。 平成25年度については、昨年度の積み残しを消化しつつ、当初の予定通り、昨年度に明らかにした加工痕の特徴量を抽出・解析する手法を検討すること、また、チョウナ加工痕の残った古材についても、入手・測定の目途がついている。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、当初の予定通り、昨年度に明らかにした加工痕の特徴量である刃の食付き側と離脱側の波形の変曲点を抽出し、別途X線CT装置で樹脂鋳型から測定した工具の刃先線形状と比較する。変曲点の抽出には自作のプログラム、抽出した変曲点群からの刃先線形状の再構成には汎用のグラフィックソフトを用いる。刃先鋳型から得られる刃先線形状と加工痕からのそれの一致度は統計的な手法で算出する。 古材に残るチョウナ加工痕について、竹中大工道具館の研究員の方に協力していただき、修理工事現場で実物を見て測定可能な部位を判断する。分けていただいた古材は、昨年度と同様に北海道林産試験場の装置で測定する予定である。測定で得られた波形について、昨年度作成した試料と同様の特徴が認められれば刃先線形状の抽出を行い、認められなければ他の特徴量から刃先線形状を推定する。具体的には、工具の移動方向と直交方向の凹凸形状を利用する。古材に残されたチョウナ加工痕には刃先が欠けた状態で使用したことによる筋状の凸部の残っていることが多く、この筋の方向が工具の移動方向と一致する。 また、カメラ型の三次元形状測定装置による加工痕の測定について、いくつかの機器で試測定を行い、性能を比較する。価格が合えば購入し、実際の現場での使用を試みる。 研究の成果について、平成24年度の成果は今夏青森県で開催される文化財科学会で発表することが決まっており、平成25年度の成果は年度末に日本木材学会で発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、学会参加(青森、愛媛(予定))、古材の採取(栃木県他)、試料の測定(北海道)等で約40万円ほどを旅費にする。また、自作プログラムや刃先線形状再構成のためのソフトを動かすためのPCとその周辺機器に約10万円を充てる。古材の搬出や古材からの試料作製補助に約10万円(@5,000 2人×10日)を充てる。カメラ型三次元形状測定装置の試測定のための機器使用料として約5万円を使用し、残り約15万円を印刷費、試料輸送費、試料調整費等に充てる。
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