伝統的木造建築物の部材に残された刃痕から使用された工具の刃先形状を推定する手法を確立することを試みた。 刃先線形状の異なる4種類のチョウナで専門技術者が加工した木材サンプル表面の刃痕を非接触で3次元形状測定した。測定した刃痕の凹凸形状には工具の進行方向と平行方向の凹凸に刃先線形状を推定するための特徴が認められた。1刃分の刃痕の凹凸形状から刃幅方向に1mm間隔で測定した各波形はチョウナの刃を木材に切り込む側の傾斜がより急峻、刃が離脱する側はより緩やかで、波形には変曲点が存在した。しかし、測定した波形には切削の際に木材細胞がうまく切り取られず表面が掘り取られた部分や細胞の戻りによる凸部分が重畳して存在するため、刃先の移動した軌跡が不明瞭であった。そこで、フィルタ処理で長波長成分のみを抽出することで余分な成分を取り除き、これを刃先の軌跡とした。刃先形状を決めるための特徴量は波形の接線の傾きが最も急峻になる点とし、1刃分の刃痕の凹凸形状を構成するすべての波形についてそれを抽出した。こうして求めた刃先形状とチョウナ画像の刃先線の形状は概ね一致した。もう一つの特徴量として波形の変曲点が考えられたが、これを用いた解析は今後の課題として残った。 この方法が実際の建築物に残る刃痕にも適用できるかどうかを調べるため、修理工事で廃棄された部材に残る刃痕を測定し、同様の解析を試みた。刃痕の特徴は専門技術者が作成した木材サンプルと同様で、刃の入る側が急峻、出る側が緩やかな波形であった。しかし、廃棄された部材であることから虫害や乾燥による収縮、割れ、風食などの様々な種類の経年劣化が認められ、それらに由来する凹凸が重畳し特徴量の抽出は困難で、現在も継続して解析中である。
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