本研究では、化学物質の濃度予測手法を応用し、自然共生型博物館内における野外を由来とする浮遊真菌の定量的な濃度予測手法の確立を目的とした。まず実測によって施設内の浮遊菌から、野外由来の浮遊菌を判別し定量する手法を確立し、次にこの実測値と化学物質の濃度予測手法を応用した浮遊菌の濃度予測値との比較を行った。 野外由来浮遊菌の判別と濃度測定について、様々な野外環境での浮遊真菌測定を継続的に行い、また捕集されたカビについてrRNAを用いた菌種同定を行った。その結果いずれの環境・季節においてもCladosporium cladosporioidesを主とするCladosporium sp.が捕集された。またCladosporium sp.濃度と野外総浮遊菌濃度との相関が見られた。このことからCladosporium sp.を指標とすることで、浮遊菌サンプラを用いた実測による施設内の野外由来浮遊菌の判別及びその濃度の推定が可能となった。 野外由来浮遊菌の濃度予測について、モデル施設内において野外総浮遊菌濃度を初期濃度とした、気流測定を用いた施設内の野外由来浮遊真菌の濃度予測を行った。またCladosporium sp.を指標とした実測値との比較を行った。その結果、各区画の予測値と実測値に一定の相関が見られた。 以上のことから、気流測定を用いた浮遊菌濃度予測は、実測では困難な野外空気の流入口から離れた区画や、Cladosporium sp.の内部発生がある施設においても、野外由来浮遊菌の施設内への流入・拡散について、定量的に把握することが可能であると考えられる。 また野外の自然共生型博物館においては、一度施設内の気流に関する施設特徴を把握すれば、その都度初期濃度である野外浮遊菌濃度の測定を行わなくとも、季節ごとの各区画における野外由来浮遊菌濃度のオーダーは予測できると考えられる。
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