研究課題/領域番号 |
24700934
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館 |
研究代表者 |
高嶋 美穂 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 研究補佐員 (80443159)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | ELISA / エライザ / メディウム / 蛋白質 / 抗体 / 美術作品 / 膠 / 卵 |
研究概要 |
ゲッティ保存研究所で用いられている方法に基づき、エライザ法の基本操作をマスターした。さらに、2013年1月には、ゲッティ保存研究所の研究者から直接に指導を受けた。 エライザ法による膠着材の同定について、次のような問題点や課題があることがわかった。 1.卵の同定には抗オブアルブミン抗体を用いているが、卵白、全卵は同定可能だが、卵黄の同定はできない。2.動物膠の同定には抗コラーゲン抗体を用いているが、抗体の抗原種の動物を原材料とする膠に対して必ずしも強い陽性反応がでるとは限らない(たとえば、ウシコラーゲンから作った抗体は、ウシを原材料とする膠に対して強い陽性反応を示し、他の動物種から作った膠については陰性かウシ膠よりも弱い陽性反応しか示さないわけではない。また、ウシコラーゲンから作った抗体でもウシ膠に陰性のことがある)。ある1つの抗体に対する膠の反応は、その膠の原材料である動物種にだけではなく、原材料の部位や製造法により差がでるようである。したがって、エライザ法で膠の動物種まで推定しようとすることはひとまずは保留したほうがよい。現在ゲッティで使用している抗体では、羊皮紙膠やシカ膠など弱い陽性反応か陰性しか示さない膠があり、どのような動物膠が使用されていても動物膠と同定できるようにするためには、さらなる抗体の検討が必要であると考えられる。3.着色材として染料を含む試料の場合には、染料の色がエライザの結果を誤判断させてしまうので同定は困難になる。 以上の結果から、エライザ法だけでは膠着材の同定は難しいと判断し、GC/MSも併用して同定の精度をあげる必要があると考えた。 また、ゲッティ保存研究所の研究者の協力を得て、西洋美術館所蔵作品のなかから、ピサロの地塗りやモネの地塗りについて、エライザ法とGC/MS法の併用によりメディウムの同定をした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はエライザ法について、経年した試料がサンプルバッファーに溶解しにくくなることが同定がうまくいかなくなる原因だと考えていたが、卵黄や動物膠に対しては抗体との反応に問題があり、まずは抗体の検討と、その抗体により何が同定でき何が同定できないのかを明らかにする必要がある。経年による試料中の蛋白質の変質や、動物膠の場合には製造時に蛋白質が変質しているであろうことを考えると、どんな抗体を選択しても抗体だけでの同定には限界がある。当初予想していたよりもエライザによる同定が難しいことが分かり、同定にはGC/MSを併用したほうがよいと考えた。当初の、サンプルバッファーの改善という目的からは異なる方向に進んでいるが、膠着材の同定という最終目標には近づいている。当該年度はエライザ法に必要な道具をそろえ、この方法をマスターして今後の研究のための基礎を固めたので、順調と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初予想していたよりもエライザ法での同定は難しいようなので、エライザ法とともにGC/MSを併用して同定の精度を上げることを考えている。 今後は、エライザ法については適切な抗体、とくに卵黄と動物膠についての抗体を検討することと、使用する器具の改善(たとえば、サンプルを入れるマイクロチューブは蛋白質が吸着されない特殊なものを使用する、など)によって同定の精度を上げるとともに、できるだけ多くの試料を分析して、同定できるもの、できないもの、必要なサンプル量を明らかにしていく。また、GC/MSを用いた膠着材の同定については、ゲッテイ保存研究所で分析法が確立しているのでこの方法で試みていく。この研究の期間中にはGC/MSで卵、動物膠、カゼインといった蛋白質の種類を同定すること、乾性油・樹脂・ロウの同定(種類の同定までいかなくても、脂肪酸が含まれていることがわかればよい)をすることまでを目標とする。 24年度は、エライザ法に欠かせないマイクロプレートリーダーや抗体を別の科学研究費により購入できたこと、一部の高価な抗体についてはゲッティ保存研究所から無償でいただくことができたこと、研究代表者が年度の途中で産休・育休に入ったことから、24年度の予算を翌年度以降に繰り越すこととなった。
|
次年度の研究費の使用計画 |
卵黄と動物膠について、できるだけ多くの抗体を試し適切な抗体を見つける必要があるので、繰り越し分の費用を抗体の購入費に充てる予定である。抗体は高価なうえに半年ほどしか保存できないので、実験を続けるためには同じ抗体を何度も買い足す必要がある。また、カゼインや植物ガムなどの抗体は24年度はゲッティ保存研究所からいただくことができたが、今後は購入する必要があり、とくに植物ガムの抗体は高価である。24年度は産休や育休に入ったため、全体的に抗体の購入を控えていた。 GC/MSは当初は使用予定ではなかったが、使用する必要があると判断したため、繰り越し分はGC/MSのメンテナンス費用とカラムなど必要な消耗品の購入にあてる予定である。
|