研究課題/領域番号 |
24700934
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館 |
研究代表者 |
高嶋 美穂 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 研究補佐員 (80443159)
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キーワード | ELISA / エライザ / 展色材 / 蛋白質 / 抗体 / 膠 / 卵 / 美術作品 |
研究概要 |
手法の改善:エライザ法は当初はゲッティ研究所で用いられているプロトコールをもとにして行っていたが、ブランクの吸光度が高めに出ることなど不具合が生じたので、洗浄回数や抗体の種類や濃度の変更などの見直しをした。その結果、ブランクの吸光度が低くなり、また、ウェルごとの吸光度のばらつきが低下した。陽性/陰性の判定についても、1検体についての繰り返し分析数を増やした。手順の見直しと判定方法の改善により、実験の再現性が上がった。 分析:動物膠について数種の抗コラーゲンI抗体をためし、選択した。そしてこの抗体を含め、使用予定の抗体ごとに目的蛋白質(鶏卵、動物膠、魚膠、カゼイン)の検出限界を明らかにした。検出限界は抗体によって異なるが、20~100ng(/20μL elution buffer)と高精度であった。また、選択した動物膠、魚膠用の抗コラーゲンI抗体でどのような膠でも検出可能かどうかを調べるために市販の膠製品数種を分析してみたが、ある抗体はウシを原材料とする膠に強い反応を示しウサギには弱い反応しか示さないといった決まった傾向がみえなかった。最終的にわかったことは、膠製品のラベルに記されている動物種と実際に原材料としている動物種が異なるケースがかなりあるということである。今後は、原材料が明らかな膠を対象にして分析、あるいは自分で動物の皮や骨からコラーゲンを抽出して抗体の反応を調べていくことで選択した抗体の適正を調べ、場合によっては新たに適切な抗体を見つけていく。 自作の絵画サンプル(約3.5年経年。胡粉+三千本膠の地塗りの上に卵白、膠、乾性油で彩色したもの)の分析をしたところ、卵白および膠を正しく同定できた。しかし、上に乾性油の彩色層を塗布したサンプルはエリュージョンバッファーに溶けにくかったのか、地塗りの膠も検出できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エライザ法と併行してGC/MSでの分析を行うはずだったが、長期間使用していなかった機器がうまく稼働しなかったために機器のメンテナンスに時間がかかり、試料を分析するまでに至らなかった。 植物ガム検出用の抗体について検討する予定だったが、海外からの取り寄せだったため注文してから納品までに想定外の長い時間がかかったうえに、やっと届いた抗体が不良品であったため植物ガム抗体については検討できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
植物ガム検出用の抗体について、抗体を選択して検出限界を明らかにする。また、動物膠検出用の抗体については、原材料が明らかな膠や、自分で動物の皮や骨からコラーゲンを抽出して抗体の反応を調べていく。どのような動物種の膠でも、どのような部位を原材料とする膠でも検出できるように抗体を選択していく。 実際の美術作品から採取したサンプルや経年した絵画レプリカサンプルなどを分析して、エライザ法で同定可能なサンプル・不可能なサンプルを明らかにするとともに、同定に必要なサンプル量を明らかにしていく。 エライザ法と併行して、GC/MSでのサンプル分析を実施する。分析はゲッティ保存研究所で行われているプロトコ-ルに沿って行う。未知サンプルの展色材の同定にエライザ法とGC/MSを両方を用いることで、分析の精度が上がる。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年2月28日から6月30日まで産前産後の休暇と育児休業を取得した。これに伴い、補助事業期間をH27年度までに延長し、予算の使用計画を変更したことによる。 H26・27年度は主に抗体や試薬の購入、GCMSのメンテナンスやバイヤルなど消耗品の購入にあてる。抗体の保存期間は約半年なので、一定期間ごとに買い足す必要がある。
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