本研究では、山階鳥類研究所に所蔵される、日本の動物学の草創期である明治・大正期に収集された鳥類標本群の歴史的背景を明らかにしてきた。調査を進めるなかで、消失したとされた海外産のタイプ標本のほか、歴史的事象に関連する証拠標本を見出すことができた。また、本研究の目的であった、標本と標本情報を担保する文献や標本目録などの史料も多数見出すことができた。 特に帝室博物館旧蔵鳥類標本群(以後、IHコレクション)については、現在の東京国立博物館と国立科学博物館によって収集した標本群であり、標本群の大部分は1870 年代以降に両博物館が欧米・濠州の博物館との交換、購入によって成立していることを明らかにした。ただし、海外の博物館標本は標本ラベルから明確に情報が判読できないことも多く、学術標本として重要な「いつ、どこで」という標本情報のあやふやさが課題であった。最終年度はIHコレクションの海外交換標本群の中で最も数の多い、米国スミソニアン博物館由来標本について重点的に調査した。同博物館から標本台帳のデジタル画像の提供を受け、台帳に記載されている採集日、採集地、採集目的、移管先などを調査するとともに、スミソニアン博物館を訪問し、帝室博物館標本群と同じ時期に採集された標本のラベルの記載内容を調査した。最終年度の調査で、移管元の標本台帳や関連標本と、IHコレクションの標本ラベルや標本台帳との記載内容の比較によって、多数の標本で情報を復元できることが分かった。本研究によって、今まで情報が乏しく生物学の研究に利用しにくいと思われていた標本についても、情報が担保されることで安心して利用出来ることになる。現在、本研究で見出した史料類に基づき帝室博物館旧蔵鳥類標本群の歴史的背景について論文化を進めている。
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