研究課題
平成24年度に引き続き、静岡県磐田市産のベッコウトンボ集団から採取された抜け殻からDNA抽出を行い、ミトコンドリアのCOI遺伝子周辺の約800塩基対についてハプロタイプの決定をおこなった。抜け殻に付着する泥などに起因する重篤なコンタミネーションについては、抜け殻内部に付着する組織片をごく微量採取することによって避けることができ、抽出されるDNAの質と量もともにミトコンドリア遺伝子のハプロタイプの決定に関して十分であることが明らかになった。これらの成果については学会誌において論文が受理されている。博物館に収蔵されている約40年前のベッコウトンボ標本の筋肉からDNA抽出を行ったが、抽出されたDNAサンプルを直接用いてのミトコンドリア遺伝子のPCRは成功しなかった。ゲノム増幅を行うため、DOP (Degenerate Oligonucleotide Primer)-PCRおよびゲノム増幅試薬処理の2つの手法を用いた。新鮮なトンボ標本と古いベッコウトンボ標本それぞれの筋肉からDNA抽出を行い、両手法を用いた後の産物をアガロースゲル電気泳動にかけ、DNA産物の確認をおこなったところ、古いベッコウトンボからの産物は増幅された長さ、量ともに非常に劣っていた。ただ、ゲノム増幅試薬処理した産物の数個体分についてはミトコンドリア遺伝子のPCRによる増幅が成功し、配列の決定が可能であった。博物館標本に含まれるDNAの経年劣化や、保存処理・害虫燻蒸処理に用いる化学薬品の影響によりDNAの損失が生じていることが想定されるが、ゲノム増幅試薬による処理は一応の効果を見せた。
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Tombo, Acta Odonatologica Japonica
巻: 56 ページ: 61-63