研究課題/領域番号 |
24700944
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
西井 稜子 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (00596116)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 宇宙線生成核種年代測定 / 重力性変形 / 日本アルプス |
研究概要 |
本研究では,日本アルプス主稜線付近に分布する線状凹地(重力性変形地形)の形成時期を宇宙線生成核種年代測定によって特定し,斜面の重力性変形プロセスの解明を目指している.平成24年度(初年度)は,飛騨山脈烏帽子岳から野口五郎岳周辺に分布する線状凹地とそれに付随する地形群から計17の年代測定試料を採取した.そして,試料の分析・年代測定を東京大学タンデム加速器施設にて行った.本年度の主な研究成果として,次の3点を挙げることができる. 第一に,対象地域の線状凹地の形成時期を特定することができた点である.いずれの線状凹地も完新世(10 ka)以降に形成されたことが明らかになった.ただし,その形成開始時期は場所によって大きく異なり,その差は最大5800年に達することが明らかになった. 第二に,対象地域の線状凹地の形成プロセス(1回のイベントで形成されたのかor複数回のイベントで形成されたのか)を復元することができた点である.計測した線状凹地のほとんどは,一度の突発的なイベントでなく複数回のイベント(or緩慢な速度での変形)によって形成されてきたことが明らかになった.これは,崖に蓄積した宇宙線生成核種蓄積量に着目し,核種濃度を計測することで初めて取り組むことが可能になった特筆すべき成果である. 第三の点は,斜面の重力性変形の進行方向(どのように変形が広がっていくのか)を明らかにした点である.稜線から斜面中腹に向かって階段状に分布する線状凹地群を対象に,それらの形成時期を年代測定によって求めた.その結果,斜面の重力性変形は,稜線部から始まり斜面中腹へ広がっていくことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画段階では平成24年度の試料採取数を36と予定していたが,実際に採取できた試料は17試料に留まった.この最大の原因として,悪天候のため,試料採取の野外調査を中止せざるを得なかったことが挙げられる.加えて,1つの試料に対する分析・年代測定に掛かる時間が予想以上に必要だったことも原因のひとつである.しかし,採取した試料は,いずれも斜面プロセスを復元するのに適した場所から得ており,研究の狙いに沿って研究成果が得られている.したがって,研究はほぼ順調に進んでいるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度と同様に,年代測定用の試料採取と年代測定を進める予定である.採取地は,飛騨山脈に加えて,計画段階で予定していた木曽・赤石山脈も含める予定である.主に7~10月に試料採取の野外調査を行い,そのほかの時期に試料の分析・年代測定,データの解析,論文執筆を行う.データ解析では,多地点において明らかになった山体の変形開始(線状凹地の形成開始)時期,形成プロセス,線状凹地の地形測量の結果を総括し,山体変形の開始時期に集中性があるのかを明らかにし,山体変形を促す要因(気候変動,地震活動など)との対応関係についても検討する.同時に,形成時期と線状凹地の大きさ,形成プロセスと線状凹地の形態,との対応関係を定量化し数値式を構築する.国内での学会発表に加え,国際会議でも発表する予定である.そして,研究成果を国際誌に投稿するため,論文執筆を開始する.
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次年度の研究費の使用計画 |
計画段階で予定していたディファレンシャルGPSを購入しなかったことにより,当該研究費が生じた.次年度では,当該研究費(B-A)を項目「その他」に組み込み,試料の年代測定にかかる加速器使用料にあてる予定である.それ以外の変更はとくにない.
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