小笠原諸島では20世紀後半から気候の乾燥化が顕在化しつつある.この気候変化は小笠原諸島の生態系に深刻な影響を与えると考えられ,特に,乾燥環境に適応した外来植物の分布拡大による生態系への影響が危惧される.本研究ではこれまでに水文気候条件の異なる島嶼(琉球列島,小笠原諸島,およびハワイ諸島)を対象に,中南米の乾燥した地域を起源とする侵略的な外来植物ギンネムの生物学的侵入に着目し,侵入初期に成立したギンネム優占林の遷移パターンからその影響を各島嶼において明らかにした.平成26年度は,必要な調査データを補足し,これまでに解析したギンネムの生物学的侵入による影響について生物地理的な比較を行うとともに,水文気候条件との関連性について検討した.その結果,外来植物ギンネムの生物学的侵入による生態系への影響には気候条件を背景とした地理的な差異が認められた.すなわち,全ての島嶼では共通して侵入初期にギンネムが密生する優占林を形成するにも関わらず,その後の遷移パターンは乾湿条件により異なっており,ハワイ諸島の風下側のような原産地に類似する乾燥環境が卓越する地域ではギンネム優占林が長期間にわたり維持更新して,ギンネムの生物学的侵入による影響がより大きくなっていた.また,琉球列島や小笠原諸島の一部などにおいてギンネム優占林を置換していた種群は湿潤熱帯に分布の中心をもつ湿潤環境を好むものを中心として構成されており,乾燥した環境下ではそうした種群が欠如することで,ギンネムの維持更新が可能になるものと考えられた.現在,小笠原諸島ではギンネム優占林が別の樹種に置換されており,ギンネムの生物学的侵入による影響は限定的であるが,近年顕在化しつつある乾燥化がさらに進行することで,乾燥しやすい場所(尾根や土壌の薄い斜面など)を中心としてより広範囲でギンネム群落が持続する可能性が示唆された.
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