研究課題/領域番号 |
24700949
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
朝日 克彦 信州大学, 山岳科学研究所, 助教 (70602150)
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キーワード | 氷河 / 氷河変動 / 気候変動 / ヒマラヤ / ネパール / 国際研究者交流 |
研究概要 |
平成25年度の実績は以下の通りである. 1.氷河末端変動の現地観測:ネパール東部,クンブ・ヒマールにおいて,1970年代から氷河末端位置の定点測量が行われている小型氷河9ヶ所のうち,本研究による観測未実施の3ヶ所について現地調査を行った.しかしながら,平成25年7月に調査を行ったギャジョ氷河では1995年の測量時の測量基点が損逸し,また1995年から今日までに氷河末端に氷河融解水による大きな氷河湖が出現,測量を実施できなかった.また11月に調査を行ったAX010氷河,AX000氷河では過去に例のない豪雪に見舞われ氷河及び測量基点が積雪に埋没し,測量を実施できなかった. これに代わり上記9ヶ所の氷河の末端変動にかかるデータの集約,整理を行った.過去の氷河後退および平成24年までの測量データを整理すると,平均後退速度は年間,1桁のメートルオーダーであることがわかった.また近年になって後退が加速している顕著な事実はなく,むしろコンスタントに後退しているか或いはやや後退が鈍化していることが明らかになった.ネパールで収集した気象データによると,夏季の平均最低気温の上昇が顕著であり,これが現在も継続する氷河末端後退の素因であろうと推測される. 2.融氷河水の利水および土地利用状況調査:上記現地調査時に氷河下流域における農業的土地利用の状況,および灌漑設備について調査した.この結果,耕作地における栽培作物は,とうもろこしおよびじゃがいもを中心に,ヒエ類であった.播種期および生育期は雨季にあたり,降水量もこの間に1000mmを越え,十分な降水があり,農業には天水を使用している.実際に河川本川からの灌漑設備は皆無であった.一般にいわれるような「氷河下流域では氷河融解水に水資源を依存している」言説を支持するような土地利用は行われていないことが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の中心をなす2課題,1)小型氷河の氷河末端変動の現地測量,2)融氷河水の利水状況にかかる村落社会調査,について現地調査をおこなった.しかしながら,測量基点の損逸および豪雪のため,測量を実施できなかった.そのため本研究での基幹となる9ヶ所の小型氷河の変動観測を平成25年度中に完遂することができなかった.極端な高所,隔絶の地でのフィールドワークであることから,当初計画においても予定通り現地調査が実施できないケースを考慮はしていたが,2度の調査が共に遂行できないことは想定外であった.このため現地観測を平成25年度中に完遂できず,平成26年に積み残すことになった.本研究最終年次ではあるが,現地調査の機会は確保してあり,当初計画の研究を実施していきたいと考えている.一方,氷河後退の要因を考察するため,現地気象官署の観測データについては入手できたので,最終年次に予定していた気象データの解析は前倒しで実施し,夏季最低気温の上昇が氷河後退を招いているとの推測を得るに至った.
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今後の研究の推進方策 |
最優先課題として,現地測量が残るネパール,ショロン地域の2ヶ所の小型氷河の再測を行う.併せて,ショロン地域の農業的土地利用および利水状況について現地調査を実施する.これによって本研究計画を完遂させ,研究を完結する.研究成果について,国際学会(アジアオセアニア地球科学会,および国際雪氷学会シンポジウム)で公表するとともに,査読付き学術論文及び図書の執筆を進め,成果を刊行する.
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次年度の研究費の使用計画 |
小型氷河の末端観測を平成25年度中に完遂し,成果を学術論文として刊行する予定であった.しかしながらこれを完遂できなかったことから,論文の刊行に至らなかった.このため,論文投稿料および英文校正にかかる経費が未執行となった. 平成25年に現地調査を完遂させられなかったことにより積み残しとなっている,現地調査および調査成果とりまとめの結果の公表,論文の刊行を行う.国際会議での成果発表のための旅費,および論文刊行にかかり英文校閲料,投稿料として,平成25年度残金および平成26年度経費を合算して予算を執行する.
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