平成26年度は,本研究が目的とするネパール東部,クンブ・ヒマールの9カ所の小型氷河のうち,末端変動観測が終了していない2カ所の氷河で観測を行った.併せて氷河下流での利水に関する村落調査を実施した.この結果,過去10年間でAX000氷河は末端位置が平均34m,AX010氷河は平均307m後退し,平均年間後退距離は3.4m,30.7mであった. 観測した9カ所の小型氷河の末端変動をまとめると,今回の観測で1970年代以降,概ね5m弱/年の後退速度であった(ただし,今回の観測で消滅が確認されたED010氷河は除く).また1970年代以降10年ごとの後退速度についても概ねコンスタントに推移しており,近年氷河末端後退速度が加速しているということは必ずしも見いだされなかった.ただし例外的にAX010氷河にあっては1978年以降の平均後退速度は約12m/年,また10年ごとの後退速度も経年ごとに加速し,とりわけ最近10年間で大きい.これはほかの氷河に比べ末端付近の地形形状の影響を受けて大きくなっているものと考えられる.いずれにせよ,IPCCをはじめとする様々な媒体で流布する「ヒマラヤの氷河は世界のどの氷河よりも急速に後退しており・・・」という言説と観測結果は一致しなかった.また近傍の気象測点の観測結果を援用すると,夏期最低気温の上昇がより顕著に表れており,氷河後退の背景にあるものと考える. 氷河下流域の村落調査では農業的土地利用において,融氷河水を含む河川本川を灌漑には利用せず天水に依拠していた.またより広域に捉えた場合も流域面積に占める氷河域の割合は3%に過ぎない.氷河の融解は夏期に生じ,この時期は雨期で河川流量も増加する.したがって,氷河後退の進行が水資源および農業的土地利用に及ぼす影響は限定的である.
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