研究課題/領域番号 |
24700954
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
山崎 大賀 北里大学, 北里大学メディカルセンター, 上級研究員 (90524231)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / 染色体不安定性 / セントロメア / DNAメチル化 / エピジェネティクス |
研究概要 |
本研究では各種組織由来の正常細胞、前癌細胞、癌細胞のセントロメア領域のDNAメチル化状態を調べることで、細胞の悪性形質獲得と、セントロメアのDNAメチル化の状態の変化との相関性を解明することを目的とした。本年については、癌細胞試料の準備およびDNAメチル化を検出する実験系の確立に主眼を置いて研究を実施した。 本研究では、ヒト子宮頚部角化細胞に、子宮頸癌の原因の一つであるヒトパピローマウイルスに含まれるE6、E7、細胞の癌化に関わるMYC、RASを含む遺伝子カセットを導入した細胞を使用し、これを実験に用いることとした。この細胞はTet-offシステムによって、ドキシサイクリン(DOX)依存的に遺伝子カセットに含まれる複数の癌遺伝子を発現誘導することが可能な細胞であり、DOX+で発現抑制がかかり、DOX-で発現誘導が行われる。この細胞を用い、in vitroでの癌化誘導の再現性の確認を行った。その結果、癌遺伝子の発現誘導を行った6日後から9日後にかけてDOX-で維持している細胞において、DOX+で維持された細胞と比較して細胞の増殖速度の増加が観察され、DOX依存的に細胞の増殖速度が上昇した。今後はこれら細胞において実際に癌遺伝子の発現上昇が認められるかどうかをウェスタンブロットで確認していく。実際の癌細胞ゲノムを用いる前に、セントロメアが低メチル化状態である精子ゲノム、高メチル化状態である非癌細胞ゲノム(HEK293)をコントロールとして検出系の立ち上げを行った。その結果、セントロメアのa-satellite配列、セントロメア近傍のSatellite-2配列において、精子ゲノムで低メチル化、非癌細胞ゲノムで高メチル化状態である結果を得ることができた。今後は癌化誘導を行ったHCK1T細胞を用いてセントロメアおよびレトロトランスポゾン配列のDNAメチル化状態の解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、研究対象とする癌細胞について、①癌の由来組織別によるセントロメアのDNAメチル化状態の比較、②発癌モデルを用いた癌細胞と非癌細胞とのセントロメアのDNAメチル化状態の比較、③「進行度合い」の違いによるセントロメアのDNAメチル化状態の比較を行っていく。初年度については、これら解析対象となる細胞の準備およびDNAメチル化の検出系の立ち上げを行った。研究者の所属研究室ではこれらの培養系および分子生物学的解析を行うためのインフラが十分ではなかったため、これらの準備に多くの時間を割くこととなった。現在はTet-offシステムによって複数の癌遺伝子が発現する遺伝子カセットを導入したヒト子宮頚部角化細胞を癌化モデル細胞として用いこととし、Dox依存的に癌化誘導を行った細胞における癌化状態の評価を完了している。また、癌化誘導を行った細胞、癌化誘導を行っていない細胞から、実験材料となるゲノムDNA、total RNAおよびタンパクの回収を完了し、セントロメア領域およびレトロトランスポゾン領域のDNAメチル化解析を現在実施中であるため、初年度での実験の遅れは十分に取り戻せる範囲であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
【in vitroでの癌化誘導細胞を用いたDNAメチル化解析】平成24年度中に実施予定であった、本項目の検討を早急に完了させる。Doxの有無によって、in vitroで癌細胞、非癌細胞を作出し、セントロメア領域が癌細胞で低メチル化状態、正常細胞で高メチル化状態であるものを確認した後、細胞の癌化過程におけるセントロメア領域のDNAメチル化状態の変動を癌化遺伝子の発現時期との相関などと併せて詳細に解析する。 【in vivoで造腫瘍した細胞を用いたDNAメチル化解析】培養細胞を用いたin vitroの実験系とは別に、腫瘍細胞をヌードマウスに移植し、造腫瘍させたものを解析に用いる。実験の評価方法等については基本的にin vitroの実験系と同様に進めていく予定である。 【分子イメージングを用いた、グローバルなDNAメチル化状態の変化と癌化に伴うゲノム不安定性の検出】 今後は、グローバルなDNAメチル化状態の変動および、ゲノム不安定性の検出について分子イメージングによる解析を実施予定である。グローバルなDNAメチル化状態の解析には、メチル化DNA検出プローブであるEGFP-MBD-NLSを細胞に導入することで行う。また、ゲノム不安定性の指標として、細胞の染色体分配異常の発生率を調べる予定である。染色体分配異常については、Histone H2Bの分子イメージングによってリアルタイムに検出することが可能である。そこで、EGFP-Histone H2Bを細胞に導入し、蛍光顕微鏡にて核内ヘテロクロマチン領域の数、特定時間における細胞分裂回数、細胞分裂時における染色体分配異常の有無を検討する。 これらの実験と併せて、平成26年度に実施予定である、癌細胞、非癌細胞におけるセントロメアの分子基盤の解析の準備として、DNAメチル化依存的にセントロメア領域に結合する分子の同定に向けた実験準備を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度では、遠心機およびサーマルサイクラーを大型機器の購入予算として計上していた。当初購入予定であった遠心機については、当該研究室で整備できたこと、サーマルサイクラーについては定価よりも大幅に安くこれを購入できたことから、当該助成金が発生した。次年度の研究費の使用計画としては以下の項目が挙げられる。 【HCK1T細胞の癌化過程におけるDNAメチル化解析】DNAのシークエンス解析費用、in vivoでの造腫瘍に用いるヌードマウスの購入費用、細胞培養に用いる培養液および添加剤等が挙げられる。 【分子イメージングを用いた、グローバルなDNAメチル化状態の変化と癌化に伴うゲノム不安定性の検出】イメージングプ ローブ発現レンチウイルスベクターの作製費用およびウイルス感染実験の実験機材等の整備、イメージング解析のための機材 およびソフトウェア等の整備。 【各種組織より樹立された癌細胞および臨床検体に由来する各種組織に由来する腫瘍細胞におけるDNAメチル化解析】各種組織より樹立された癌細胞および臨床検体に由来する各種組織に由来する腫瘍細胞等の購入費用。
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