研究課題/領域番号 |
24700954
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
山崎 大賀 北里大学, 付置研究所, 研究員 (90524231)
|
キーワード | 染色体不安定性 / セントロメア / DNAメチル化 / エピジェネティクス |
研究概要 |
本研究では正常細胞、癌細胞のセントロメア領域のDNAメチル化状態を調べることで、細胞の悪性形質獲得と、セントロメアのDNAメチル化状態の変化との相関性を解明することを目的としている。細胞の癌化過程に伴うセントロメアDNAメチル化状態の変化を調べる対象として、Dox依存的に癌遺伝子(E6E7,MYC, RAS)を発現誘導することが可能なヒト子宮頚部角化細胞(HCK1T)を用いた。 癌化誘導によりin vitroでの細胞増殖速度の上昇、ヌードマウス皮下での造腫瘍を確認した。解析対象のセントロメアとして、染色体の動原体部分に配置されているα-satelliteおよびセントロメア近傍のヘテロクロマチン領域のSatellite2を用いた。in vitroでの癌化誘導前でα-satelliteは約66%のCpGサイトがメチル化されていた。癌化誘導10日後、20日後、30日後、40日後および50日後で癌化誘導有りの細胞と無しの細胞とのDNAメチル化状態を比較した結果、両者の間に顕著な差は認められなかった。この様な傾向はSatellite2、in vivoで造腫瘍させた組織を用いた解析でも同様であった。なお、腫瘍塊の大きさとDNAメチル化状態に相関性は認められなかった。論文で報告されているような癌細胞と正常細胞でのセントロメアDNAのメチル化状態の差は、本実験では再現することはできなかったが、この原因として、細胞が由来する組織の違いや、臨床検体であるかライン化された細胞かとの違いが考えられた。そこで、次年度では様々な組織に由来する癌細胞株を用い、セントロメアDNAが低メチル化状態を示す癌細胞をスクリーニングする。 また、本年度からセントロメアにおけるDNAメチル化の機能解析を行うことを見越し、セントロメア特異的にDNAメチル化を導入する実験系の開発に着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、研究対象とする癌細胞について、①癌の由来組織別によるセントロメアのDNAメチル化状態の比較、②発癌モデルを用いた癌細胞と非癌細胞とのセントロメアのDNAメチル化状態の比較、③「進行度合い」の違いによるセントロメアのDNAメチル化状態の比較を目標として掲げた。平成25年度については、細胞の癌化に伴ってセントロメアDNAが低メチル化状態になる様子を人為的に癌化誘導が可能な細胞を用いて再現しようと試みた。しかし、予想に反して癌化誘導の有無で、セントロメアDNAのメチル化状態に大きな変化は認められなかった。このため、分子生物学的な解析の対象となる細胞を準備することができずに研究が遅れることの原因となった。次年度は研究室で保管している癌細胞株を網羅的に使用し、セントロメアが低メチル化状態を示す細胞のスクリーニングを試みることから、低メチル化状態を示す細胞の選定は時間の問題であると考えられる。また、これと同時並行してセントロメア領域特異的にDNAメチル化を導入する実験系の確立を行っており、概ね良好な結果が出始めている。これらの実験系を組み合わせることにより、セントロメアにおけるDNAメチル化の意義に直接的に答えることができる実験をスピーディーに行えることから、研究の遅れは十分に取り戻せる範囲であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
【セントロメアDNA低メチル化を示す癌細胞株のスクリーニング】 様々な組織に由来する癌細胞株を用い、セントロメアが低メチル化状態を示す癌細胞株をスクリーニングする。具体的には、咽頭癌、結腸上皮癌、肺扁平上皮癌細胞、グリア芽腫、悪性黒色腫、気道上皮細胞、乳癌、胃癌を予定している。 【セントロメア特異的にDNAメチル化を導入する実験系の確立】 セントロメアDNAのメチル化状態を改変し、細胞の表現型を調べることで、セントロメアDNAの低メチル化状態が果たす生物学的な意義を探る。具体的には、DNAメチル化酵素SssIのN末端側にセントロメアを認識するCENPBの融合分子を細胞に導入し、セントロメア特異的なDNAメチル化導入が可能かどうかを検証する。セントロメアDNAが低メチル化状態を示す細胞は癌細胞の他に、卵子など生殖細胞が挙げられる。まずは卵子を細胞材料として用いて本実験系の確立を目指す。 【セントロメアDNAが低メチル化状態を示す癌細胞へのセントロメア特異的なDNAメチル化導入による表現型の解析】 セントロメア特異的にDNAメチル化を導入する遺伝子コンストラクトを、セントロメアが低メチル化状態を示す癌細胞に遺伝子導入し、癌細胞としての「振る舞い」に変化が生じるかどうかを検討する。発現誘導を行った細胞は、細胞分裂過程の分子イメージングを行うのと同時に、in vitroでの増殖速度、コロニー形成、Migration、Invasionアッセイ、in vivoでの造腫瘍能を検討し、セントロメアDNAのメチル化が染色体の不安定性あるいは細胞の癌化にどのように関わるかを検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
初年度では、遠心機およびサーマルサイクラーを大型機器の購入予算として計上していたが、当初購入予定であった遠心機については当該研究室で整備できたこと、サーマルサイクラーについては定価よりも大幅に安くこれを購入できたことから、本年度においてもこの購入予算に由来する次年度使用額が生じている。 【癌細胞株セントロメアDNAのメチル化解析】細胞培養に用いる培養液および添加剤、DNAメチル化解析のためのシーケンス解析費用が主な経費として挙げられる。 【セントロメア特異的にDNAメチル化を導入する実験系の確立】細胞材料として使用する卵子の採卵に用いる動物、セントロメアに局在させるDNAメチル化酵素発現ベクターの構築、卵子に注入するためのin vitro RNA合成が主な経費として挙げられる。また、セントロメア特異的にDNAメチル化導入が行われているかを確認する目的で、セントロメアと、それ以外のゲノム領域(レトロトランスポゾン等)のDNAメチル化解析を行うための費用もこれに含まれる。DNAメチル化解析については、Bisulfite sequenceの他に、抗メチル化抗体で免疫沈降したゲノムを次世代シーケンサーで網羅的に解析する実験(MeDIP seq)を計画しており、次年度使用額は効果的に使用できるものと考えている。
|