研究課題/領域番号 |
24700955
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
中村 麻子 大阪医科大学, 医学部, 講師 (70609601)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | DNA損傷 / 低線量放射線 / 発がん |
研究概要 |
本研究は低線量放射線被ばくによるDNA損傷レベルと発がんリスクの相関性を明確にすることを最終目的とし、研究計画に掲げた実験の中でも「被ばく家畜のDNA損傷レベルのモニタリング」を中心に研究を行った。福島第一原発事故による被ばく家畜のDNA損傷レベルを、近年その高感度性からも注目されているリン酸化型ヒストンH2AX(γ-H2AX)を用いてモニタリングした。具体的には、被ばく家畜から採取された血液よりリンパ球を分離し、γ-H2AXによる免疫染色法を行った。細胞当たりに検出されるγ-H2AXフォーカスの数を計測することにより、細胞当たりのDNA損傷レベルを測定した。本年度は,以下に示す研究成果を得た。 まず,予備的実験として家畜(今回の実験では牛)サンプルで、問題なくγ-H2AXの検出が可能であるかを検討した。牛血液サンプルに放射線照射後、リンパ球を分離、γ-H2AXによる免疫染色を行った。その結果、放射線量に依存してγ-H2AXフォーカスレベルが上昇していることが確認された。この結果は、牛の血液サンプルを用いてもγ-H2AXの検出が可能であることを示していると同時に、他の動物種同様にγ-H2AXをモニタリングすることで放射線量の推測が可能であることを示唆している。 次に,避難地域5か所から被ばく家畜の血液を採取し(合計100頭以上)、リンパ球におけるγ-H2AXレベルを検討した結果、家畜が捕獲された5か所の地域すべてにおいてコントロール家畜と比較して有意に高いことが明らかとなった。このことは、避難地域におけるDNA損傷誘発がコントロール地域よりも高い頻度で起こっていることを示唆している。本研究で得られた結果は、被ばく家畜の生体影響として、DNA損傷の増加が認められることを示した最初の研究報告であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施により被ばく家畜のリンパ球におけるDNA損傷レベルが、コントロールよりも優位に高いことが示された。この結果は、原発事故に起因する低線量放射線被ばくが、どの程度のDNA損傷を誘発しているのか、さらにはどのような生体影響をもたらすのかを知るための重要な知見であると考えられる。低線量放射線によるDNA損傷誘発という、直接的な生物学的影響を検出したという点で、本研究の達成度は高いと考える。しかしながら、γ-H2AXフォーカスを有する細胞に特異性があるのか、さらには体内で検出された放射性同位元素(セシウム137等)レベルと血中のDNA損傷レベルに相関性はあるのか、など、様々な問題を検討していく必要があると同時に、発生したDNA損傷の詳細な解析はまだ行われていない。そのため、本研究計画が目的とする「低線量放射線被ばくの生物学的影響についての知識を深め、低線量被ばくに対する適切な防護法、発がん予防など、臨床応用につながるための研究基盤を確立」のためには、今年度得られた結果をもとにしたさらなる解析が必要だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究計画に掲げた「低線量放射線によるDNA損傷の分子レベルでの解析」を中心に行ってく予定である。つまり、疫学的なDNA損傷レベルのモニタリングだけではなく、低線量放射線による発がんリスクのメカニズムを解明するための基盤知識として、放射線照射によって発生したDNA損傷部位の同定や、あるいは低線量放射線に対する臓器別の感受性の検討などを行っていく予定である。具体的には以下に挙げる研究計画を遂行する。 1.放射線照射後のDNA損傷発生及び修復過程のモニタリング 10mGy以下の低線量放射線をヒトリンパ球や細胞株に照射後、γ-H2AXのフォーカス形成について免疫染色法を用いて経時的にモニタリングする。これにより、低線量から高線量にいたるまでの放射線照射により、どれほどの損傷が発生し、どのタイミングで修復されるかという、物理化学的変化を明確にすることが可能である。 2.放射線照射によって誘導されたDNA損傷部位の同定 スライド上に展開した分裂期染色体上でγ-H2AXと特異的プローブによるFISHを同時に行い、放射線照射によって誘発されたDNA損傷部位が、染色体上のどこに存在するのか特定する。それによって、低線量放射線によって生じる傷が、中線量、高線量によって生じる傷と同じメカニズムで修復されるか予測することが可能であると考える。 3.マウスモデルを用いた低線量放射線に対する臓器感受性の検討 マウスを全身照射後、各臓器の組織切片を作成し、γ-H2AXにより誘導されたDNA損傷レベルを検討する。それによって、臓器ごとの発がんリスクを予測することが可能になると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請者は平成25年度より所属機関を大阪医科大学から茨城大学に変更して研究を行っている。研究室の移動および立ち上げに伴い、多くの機器、試薬等の購入が必要となることから、平成25年度は未購入であったサイトスピン集細胞遠心機の購入をはじめとして、一般試薬購入に予算を使用する。また、最終年度であることから、得られた研究成果を発表する年度と位置づけ、日本癌学会、日本放射線影響学会といった国内の学会発表に加えて、アメリカ放射線影響学会等の国外での学会発表に予算を計上する予定である。
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