研究課題
本研究は低線量放射線被ばくによるDNA損傷レベルと発がんリスクの相関性を明確にすることを最終目的とし、「被ばく家畜のDNA損傷レベルのモニタリング」を中心に研究を行った。福島第一原発事故による被ばく家畜のDNA二本鎖切断レベルを、近年その高感度性からも注目されているリン酸化型ヒストンH2AX(γ-H2AX)を用いてモニタリングした。具体的には、被ばく家畜から採取された血液よりリンパ球を分離し、γ-H2AXによる免疫染色法を行った。細胞当たりに検出されるγ-H2AXフォーカスの数を計測することにより、細胞当たりのDNA二本鎖切断レベルを測定した。平成24年度においては避難地域5か所から被ばく家畜の血液を採取し(各地域10頭以上、合計100頭以上)、リンパ球におけるγ-H2AXレベルを検討した結果、家畜が捕獲された5か所の地域すべてにおいてコントロール家畜と比較して有意に高いことが明らかとなった。このことは、避難地域におけるDNA損傷誘発がコントロール地域よりも高い頻度で起こっていることを示唆している。続く平成25年度においては、DNA損傷を有するリンパ球細胞がTリンパ球細胞であるかBリンパ球細胞であるかについて、細胞表面抗原を指標として検討をした。その結果、リンパ球の種類によるDNA二重鎖切断誘発レベルに大きな違いは認められなかった。また、被ばく家畜血中に認められたDNA二重鎖切断レベルが、急性の外部被ばくとした場合どの程度の吸収線量に相当するのかについて検討した結果、約20 mGyに相当することが明らかとなった。本研究は、評価が非常に難しい低線量慢性被ばくの影響を、分子マーカーを用いたDNA損傷レベルの測定によって検討したものであり、その結果被ばく家畜にDNA損傷の増加が認められることを示した最初の生体影響評価研究報告であると考えられる。
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PLoS One.
巻: 8 ページ: -
10.1371/journal.pone.0070575.