近年、子どもが放射線診断や放射線治療の目的で頭部への被ばくをする機会が増えているが、小児期被ばくの発がんリスクの基礎データは十分になく、放射線源の違いによる発がんリスクの基礎データはほぼない。本研究では、乳児期に放射線感受性であるPtch1遺伝子ヘテロ欠損マウスを用い、放射線源及び被ばく時年齢の違いによる髄芽腫誘発機構の違いを明らかにすることを目的とした。 被ばく時年齢は胎生14と17日、生後1、4、10日齢、非照射群の6群で、放射線源は中性子線及びγ線を用いた。照射線量は0.1 及び0.5 Gy(生後10日齢は0.5 Gyのみ)とした。照射後、健康状態の悪化したマウスの病理解析を行い、髄芽腫組織の一部と正常組織を分子解析用に凍結保存した。 全実験群の髄芽腫発生時期に違いはなかった。γ線および中性子線の髄芽腫発生率は、胎生17日と生後1日齢被ばくでは最も高頻度で、生後10日齢は非照射に比べて減少した。また生後10日齢被ばく以外はγ線に比べ中性子線で発生率が増加した。よって被ばく時年齢依存性には放射線源の違いはなく、中性子線の生物効果はγ線より高いことが明らかとなった。 Ptch1遺伝子ヘテロ欠損マウスより発生した髄芽腫は、13番染色体のLOHとゲノムコピー数を調べることで、自然発生髄芽腫(組換え修復異常による正常Ptch1 allele欠損:S-type)と放射線誘発髄芽腫(中間部欠損による正常Ptch1 allele欠損: R-type)に区別できる。そこで生後1、4、10日齢被ばく誘発髄芽腫の正常Ptch1 allele欠損パターンを調べた。生後1、4日齢は線量依存的にR-typeが増加し、中性子線はγ線に比べ高頻度であった。一方、生後10日齢ではγ線及び中性子線共に増加しなかった。さらに、生後4、10日齢誘発髄芽腫の一部に中間部欠損がで2カ所生じたタイプを観察した。
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